Research Abstract |
希少食肉目動物の繁殖生理の解明と繁殖生態調査法の確立にむけた本年度の研究において,主に次の結果が得られた。1.動物園のクマ科とネコ科の希少種7種(ホッキョクグマ,ツキノワグマ,マレーグマ,アムールトラ,ツシマヤマネコ,チーター,サーバル)から糞サンプルを継続的に採取し,繁殖生理状態を長期的に追跡した。2.特に,採血の機会が得られ,血清サンプルを入手できた,チーターおよびアムールトラにおいて,血中と糞中におけるプロジェステロン値間の相関を調べた結果,相対的な高低関係は血中と糞中とで矛盾はなかった(相関係数を求めるまでのサンプル数を集めることができなかったため動態のみ比較)。すなわち,糞中プロジェステロンの動態は,体内(血中)での動態をほぼ反映していることが判明した。3.チーター,アムールトラ,ツシマヤマネコおよびマレーグマの雌個体について,黄体活動の指標としてプロジェステロン,卵胞活動の指標としてエストラジオール-17βまたはアンドロステンジオンを継続的に測定し,行動等の記録との関連性を調べた。その結果,いずれの種も明確な繁殖の季節性はもたず,基本的に交尾排卵様式で,種や個体により程度の差はあるが,稀に自然排卵が起こっている可能性が示唆された。4.ホッキョクグマとツシマヤマネコでは,日本動物園水族館協会種保存委員会の種別繁殖検討委員会において研究データを報告し,動物園での繁殖計画に役立てた。また,公開シンポジウムの開催やインターネット上のコラム掲載を通して,研究概要を一般向けにも発信した。5.野生個体の排泄糞を用いた調査が可能かどうかを明らかにするため,飼育下のアムールトラとチーターにおいて排泄直後に糞を採取し,経過時間ごとの糞中プロジェステロン値を調べた。その結果,両種とも少なくとも排泄後60時間後までは,排泄直後の数値とほぼ変わらないことが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
動物園と協働して,クマ科とネコ科の希少種の繁殖生理に関する研究が飼育下個体の調査によって,ほぼ計画通り進展した。特に本年度重点的に取り組んだ,チーター,ツシマヤマネコおよびマレーグマでは,長期間の研究によって,種の繁殖生理学的特性が明らかにでき,その一部は学会発表や論文発表することができた。また,野外調査において必須となる,屋外採取糞の分析可否に関する基礎的検討も進んだ。
|
Strategy for Future Research Activity |
希少種,特に大型種の繁殖生理に関する調査研究は,短期的な実施や少数個体の解析では繁殖機会や繁殖成功例も限られるため,真の生理情報が得られない。そのため,引き続き多数の動物園と連携を深めて,より長期的な視点で継続的に行う。次は最終年度となるため,これまでに野生個体から収集蓄積してきたサンプルの分析を進め,飼育個体から得たデータを基盤に比較し,野生個体からのデータの評価を試みる。
|