2011 Fiscal Year Annual Research Report
チンパンジー社会における社会的カテゴリーとそれをめぐる人間の語り
Project/Area Number |
21681031
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 詞子 京都大学, 野生動物研究センター, 研究員 (60402749)
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Keywords | 相互行為 / 自然 / 文化 / 霊長類 / 霊長類学者 / 境界 / ジェンダー / 性別 |
Research Abstract |
観察者が動物に当てはめるオス/メス、オトナ/コドモ、母親/子、優位/劣位といった区分が、当の動物たちにとって実際の相互行為のなかでいかに組織化される/されないのかを明らかにすることを目的に、国内の飼育チンパンジー、タンザニアの野生チンパンジーを対象に実地調査をおこなった。この研究を遂行する上で扱う「境界」領域は多岐にわたる。そこで人類学者や霊長類学者とともに4回の研究会と、1回の公開ワークショップを開催し考察を深めた(詳細は備考のURLを参照)。野生チンパンジーの出会い場面の予備分析について「チンパンジーが集まるとき」と題するポスター発表(日本アフリカ学会)をおこなった。相互行為研究は、実際に相互行為がおこっている場面のみを分析するが、報告者は離合集散するチンパンジーがいかに出会うのかに着目した。この結果、出会いの多くは相互行為までに至らないことが多く、オスカテゴリーの下位へとメスカテゴリーを位置づける根拠となる、メスからオスへの挨拶行動はそれほど頻繁ではなく、多様な関わり方/関わらない行動が観察された。オスとメスに着目した行動研究は、序列や繁殖以外にはほとんど扱われることがない。しかし、出会いを個々の個体の生活の中に再度位置づけ直す試みは、より充実した資料と分析によって、動物ジャンダー論の核心へと迫るものになると期待される。本研究で着目している様々な区分は相互に密接に結びついており、人間による人間理解を背景にするとともに、そうした人間理解を「自然」なものとして扱うことの正当性をも提供してきた。そこで、初年度よりおこなっている霊長類研究の文献研究を継続しておこなった。暗にオスと比べたメスの非社会性とも関連づけられてきたチンパンジーのメス間は順位序列が明瞭ではないという特性が、近年、データ蓄積や新たな統計手法の導入によって、メス同士にも順位序列が「つけられる」という論文が多数出版された。オス理解に基づくメス理解という新たな方向性とも捉えられ、今後分析する上でも鍵となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内の飼育チンパンジーの資料収集については計画通り進められた。取得した映像データの分析については、初めての試みでもあり、試行錯誤しながら進めてきた。今年度は、分析方法について大きく進展したが、これまで収集したすべての資料を分析し終わったわけではない。野生チンパンジーについては、予定通り調査を実施し、資料収集方法についても確定できたが、分析のための資料は追加収集する必要がある。チンパンジー社会の基礎的背景となる生態学的な調査・分析は予定通り進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
国内の飼育チンパンジーについては、これまで通りの資料収集をおこなう。分析方法が確立できたので、すでに収集した資料については基礎分析を夏までに済ませ、執筆作業に入る。野生チンパンジーの微視的資料はまだ不十分なので、2-3ヶ月ほど現地調査をおこなう。文献研究については、近年のメス研究の増加に鑑みて、当初の予定の2009年までの文献ではなく、2011年度までの文献を対処とすることにした。その上で、重要文献の収集を済ませ、本研究で着目している様々な区分が、チンパンジーやボノボの研究を通して相互に結びつきながら、そうした区分を「自然」なもとして扱うことの正当性を提供してきた機序を検討したい。
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Research Products
(6 results)