Research Abstract |
本課題の目的は,希土類錯体を色素分子として導入した希土類色素増感太陽電池の開発・解明することにある.この目的のために物質的・装置的の両側からアプローチしてきた. まず,励起レーザーの波長可変システムについては,可視光領域(400-800nm)で,およそ10mJ以上のパワーを出すことが出来るようになり,時間分解ESRにて利用する励起レーザーとして十分なパワーを得ることが出来た.また,X-band(~9.5GHz帯)のみならず,Q-band(~34GHz帯)においても,パルスESR技術を利用した多周波時間分解ESRシステムの構築を終えた.これにより,数ns程度の高時間分解能を有する多周波時間分解ESRシステムを完成させた.本年度は,上記のシステムを利用して,光誘起伝導性物質として報告されたTTF誘導体の時間分解ESRによる,光誘起伝導性メカニズムの解明を試みた.まず上記物質の凍結溶液(孤立分子系)における光によるスピンダイナミクスを調べた.可視光領域での励起に対して時間分解ESRシグナルを得ることができ,その得られた時間分解ESRスペクトルのスペクトルシミュレーションにより,ゼロ磁場分裂定数|D|=~0.07cm^<-1>を持つ励起三重項に由来すること,またその励起三重項は励起一重項状態からの系間交差により生成されることを明らかにした.この結果は,分子構造からDFT計算によりスピン密度分布を調べた結果とほぼ一致した.一方,固体系では,上記の励起三重項由来のシグナルは一切観測されず,全スペクトル幅の狭いスペクトルが得られた.スペクトル幅の違いから,光誘起伝導性を担う電荷分離状態に由来すると予想される.つまり光誘起伝導性は分子単体の機能ではなく,集合系により発現する機能であることを明らかにした.
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