Research Abstract |
希土類元素をもつ色素分子としてGd_2@C_59NやLa@C_82の金属内包フラーレンを検討した.定常状態において多周波ESR測定,Nutationスペクトル測定,および,そのスペクトルシミュレーションにより,4f軌道特有の複雑な高スピン状態を精密に解明した.しかしながら,試料量などの問題によりTio_2ナノ粒子に吸着させて色素としての検討をすることはできなかった.そこで,比較的長寿命を稼ぐことが可能な光吸収部位(PPD,Pyrene)と伝導部位(TTF)とを,直接,アルケンリンカーにより接続した単分子型光誘起伝導性物質を例に,光電変換機能のコアともいえる電荷分離(CS)状態の生成メカニズムを検討した.測定には,波長可変レーザーシステムとパルス多周波ESR装置を組み合わせた高時間分解能を有する多周波時間分解ESRシステムを利用した.上記TTF誘導体の固体試料では,励起三重項(T_1)に由来するシグナルよりもスペクトル幅の狭いシグナルを得た.スペクトル幅は,スピン間距離rとした場合,r^<-3>に比例することが知られている.つまり,実測のスペクトルは,極端にスピン間距離が長いことを意味している.さらにアルケンリンカーを長くすることで,全体の線幅が系統的に小さくなる.これらから,実測のシグナルは,伝導部位から光吸収部位に電子移動を起こしたCS状態に帰属できる.また,シグナルパターン解析から,CS状態は,励起三重項(T_2)状態を経由して形成されること,そして,T_2状態はT_1状態とは異なることも示し,光誘起伝導性発現メカニズムの一端を,スピンダイナミクスという観点から,実験的に示すことに成功した.また,CS状態の寿命のアルケンリンカー長依存性を調べると,長いほど寿命が長くなることが明らかになり,効率的に機能性を発現させるには,リンカー長を長くすることが有効なことを示した.現在までに,固体試料に対して,機能性解明研究に高時間分解能を持つ時間分解ESRに強力な測定方法となることを示すことはできた.
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