Research Abstract |
本年度は次の研究を進めた.1)コミュニケーション能力とその学習能力の進化に関するより生物学的に具体的な状況設定,また,工学的応用も念頭に置いた状況設定として,鳥の歌行動の時間的可塑性に注目し,歌特性の異なる複数種による歌重複回避行動に関する共進化シミュレーション解析モデルを構築した.現在,実際の生態データとの比較も交えた解析とモデルの改良を継続している.2)表現型の改変に基づく適応である学習と,環境要因の改変による適応度の改変に基づく適応であるニッチ構築との共進化モデルを構築し,解析を行ったところ,両生態的過程の時間的局所性が低い場合には両過程が交互に進化する共進化サイクルが生じることが判明した.3)季節などの外的な環境条件の変化が,学習能力を形作るモジュール構造と可塑性の関係に与える影響に注目し,周期的変化環境におけるニューラルネットの結合重みの可塑性進化モデルを構築・実験した結果,ネットワークにおける可塑性を持った結合重みに偏りが生じ,環境変動に対して即座に対応可能な振る舞いを可能にすることが判明した.4)ヒトの言語能力の進化を対象とし,個体の言語学習能力と先天的言語能力が進化し,言語能力の複雑化と多様化の過程が可視化可能なモデルを構築し,言語を共有する集団の分化や収束の過程の可能なシナリオを提示した.5)個体間相互作用のネットワーク構造とゲーム戦略,および,ゲーム構造の共進化の理解のために,ゲーム戦略とネットワーク構造に加えてゲーム構造も進化可能なモデルを構築し実験したところ,ゲーム戦略とネットワーク構造のサイクリックな共進化過程が生じることが判明した.6)さらに,協調ネットワークにおける選択の強さの影響や,外乱によって自己組織化するセルオートマトン,食物網の進化ダイナミクス等,個体間相互作用の理解に関する基礎的研究や,適応度地形概念の応用の可能性の検討等を行った.
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