Research Abstract |
平成22年度は,近赤外分光法(NIRS)を用いて,乳児の表情認知の発達に関する研究を行った.成人での表情認知の研究により,恐怖顔などのネガティブ表情は左半球,一方で笑顔などポジティブ表情は右半球で処理され,表情によって半球差がみられることが報告されている(Adolphs et al.2000).そこで,乳児でも,表情の違いによって,脳活動に半球差が認められるのかについて,左右両側頭部での活動の計測を行った. NIRS実験実施の前に,まずは成人を対象として,笑顔と怒り顔の表情の評定実験を行い,NIRS実験で用いる刺激の選定を行った.評定実験の結果に基づき,5名の日本人の女性の中立顔,笑顔,怒り顔を選び,画像処理ソフトを用いて刺激を作成した.それら顔刺激と,顔以外の刺激として野菜の画像を見ている時の生後6-7ヶ月児12名の脳血流量をNIRSにより計測した. 笑顔と怒り顔を見ている間の乳児の脳血流量を計測したところ,笑顔と怒り顔で脳血流量の活動位置が異なることが示された.つまり,笑顔では左側頭部,怒り顔では右側頭部で大きく増加することが示された.すなわち,各表情の処理に半球差が示された.今回,NIRSを用いることによって,生後6ヶ月以降の乳児が,笑顔(ポジティブ表情)と怒り顔(ネガティブ表情)を識別していることが,脳血流量の活動から明らかになった.これらの結果は,乳児でも成人と同じく,ポジティブ表情とネガティブ表情の処理が異なること,さらにその発達は生後6ヶ月以降で生じる可能性があると考えられた.
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