Research Abstract |
平成23年度は,乳児の母親顔と未知顔の認識における脳活動についての実験を行った.乳児が母親の顔と見知らぬ女性の顔を見ている際の脳血流量を近赤外分光法(NIRS)によって計測した.その結果,母親顔ではoxy-Hbが左右両側頭部で有意に活動したのに対し,見知らぬ女性の顔ではoxy-Hbの活動は右側頭部のみ増加が見られた(Nakato et al,2011.Early Human Development vol.87,1-7). しかしながら,この研究では,刺激提示の際に,母親顔は乳児自身の母親の顔画像1枚を5回反復提示,未知顔では5名の女性の顔をランダムに1枚ずつ提示した.そのため,母親顔に対する左側頭部での活動の増加が,母親顔に対して特殊に活動したのか,あるいは母親顔を反復提示したことによって活動したのか,といった2つの可能性が考えられた.そこで,これらの可能性をさぐるために,乳児の母親顔認識における追加実験を行った.具体的には,未知顔の刺激提示を母親顔の提示と伺じく,1名の見知らぬ女性の顔を5回反復提示し,母親顔と未知の女性顔に対する脳活動をNIRSによって比較検討した.実験の仮説として,母親顔に対する特殊な反応が左側頭部で生じるなら,Nakato et al(2011)と同じく,今回の実験でも母親顔を提示中には左右両側頭部での活動が増加し,未知顔では右側頭部のみ活動が増加すると考えられる.一方で,刺激の反復提示により左側頭部での活動が増加するなら,Nakato et al(2011)とは異なり,母親顔だけでなく,未知顔においても左側頭部での活動の増加が見られると考えられる.その結果,前回の研究(Nakato et al,2011)と同じ結果がえられた.すなわち,oxy-Hbの活動が母親顔では左右両側頭部で増加,未知顔では右側頭部でのみ増加した.このことは,顔の既知性にかかわらず,顔刺激全般に対する右側頭部の優位性が認められた.また,母親顔でのみ,左側頭部でoxy-Hbの有意な活動の増加が認められたことから,乳児の母緯顔に対する特殊な脳内の処理過程が,側頭部に存在する可能性の高いことが示唆された.
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