Research Abstract |
本研究は,脂質二分子膜,細胞,生体組織など微小領域内における酸素ダイナミクスを計測・イメージングするためのりん光プローブ分子を,光化学的アプローチから設計,開発することである。 平成21年度は,赤色りん光を示すイリジウム錯体(BTP,BTQ)の構造をもとに,生体深部イメージングに有利な近赤外光領域に吸収およびりん光を示すイリジウム錯体の設計,開発を行った。イリジウム錯体の設計において,BTP,BTQの配位子のπ共役系を拡張する方法と,配位子に置換基を導入する方法を用いた。前者の方法では,配位子としてベンゾチエニルフェナンスリジンを用いることにより,700nmに吸収を示し,720nmの近赤外光領域にりん光極大波長を示すBTPHを開発した。また,後者の方法では,電子吸引性基を導入することにより,波長の長波長化は図れたが,りん光極大波長は700nmまで到達しなかった。以上の結果より,π共役系を拡張する方法が有効であることが明らかとなった。BTPHのりん光量子収率およびりん光寿命を1,2-ジクロロエタン中で測定したところ,0.32および2μsであった。特にりん光量子収率は,BTPとほぼ同じ値であり,また,他の近赤外光領域にりん光を示す化合物を凌駕する値である。BTPHと脂質二分子膜(DMPC)との相互作用を調べたところ,BTPHは効率的に脂質膜に取り込まれ,膜内の酸素濃度が減少すると,りん光強度が強くなり,また,りん光寿命が長くなった。これより,BPTHは膜内の酸素濃度にりん光特性が応答することが明らかとなった。
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