Research Abstract |
本研究の目的は,脂質二分子膜,細胞,生体組織内など,微小領域内における酸素ダイナミクスを計測・イメージングするためのりん光プローブを設計・開発することである。平成22年度は,平成21年度の知見をもとに,(1)イリジウム錯体の生体親和性の向上,(2)イリジウム錯体の発光輝度の向上を目指し研究を実施した。 イリジウム錯体の生体親和性の向上では,錯体の補助配位子にカルボキシル基を有するBTPSAおよびアミノ基,ジメチルアミノ基を有するBTPNH2,BTPDMを合成した。これら錯体の光物理特性(りん光量子収率,寿命)はBTPと同様であった。一方,培養細胞内での発光強度は,BTPと比較してBTPSAでは減少したのに対して,BTPNH2,BTPDMでは著しく増加した。これは,水中でアニオン性になるBTPSAでは,細胞内移行性が低いのに対して,水中でカチオン性になるBTPNH2,BTPDMでは,細胞移行性が著しく増加することを示している。BTPM2,BTPDMを担がんマウスの尾静脈より投与したところ,2時間後に腫瘍からのりん光を観測することができ,その発光強度はBTPよりも増加した。 イリジウム錯体の発光輝度の向上では,モル吸光係数が大きいローダミンBを結合させ,分子内エネルギー移動によって高輝度化を図った。合成したBTPH-Pro8-RhBでは,発光輝度がBTPHに比べて約1.5倍増加した。理論的には約8倍増加することが予想されていたがこの値に到達していない。この原因を検討するために,発光寿命の測定を行った。その結果,分子内エネルギー移動過程と競合して分子内電子移動過程が起こっており,エネルギー移動が一部阻害されていることが分かった。
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