Research Abstract |
(目的)動脈系の疾患やその治療には血栓症が合併症として問題となる場合がある.本研究では,関連性が示唆される衝突,せん断,渦等の異常血流をマイクロチップ内で再現し,血球細胞の破壊実験を行い,個々の細胞がいつ,どこで,どのように崩壊していくのかをリアルタイム可視化計測により検証する.ここでは,赤血球の破壊力学を構築することを目的とし,本年度は,壁面衝突を重点課題とした.(方法)新鮮静脈血をリン酸緩衝水溶液でヘマトクリット1%程度に希釈した.マイクロチップ内で高速マイクロジェットを創出し,高速度カメラを用いて可視化計測した.(成果)衝突面を平面および凸形状(曲率10μm)として,ジェット出口平均流速1m/sで比較実験を行ったところ,両者で衝突形態が全く具なることが判明した.平面衝突では,流れ方向へ伸長した赤血球が衝突直前に急速に形状回復し,短軸方向への圧縮変形となり,大変形を伴うものの緩減速するため衝突破壊には至らない(弾性衝突).一方,凸形状の場合,伸長した赤血球が形状回復せず急減速し,その過程で長軸方向に圧縮され衝突する(剛体衝突).衝突時には赤血球が座屈し,一部の細胞膜が破壊し,内包溶液を放出しながら膜崩壊に至る超高速現象(数十μsオーダー)の可視化に成功した.数値流体解析を用いて,対流,変形,外力のエネルギーバランスを算出し検討した.結果,高速流動する赤血球が急停止すると,細胞前後の圧力較差が発生し圧縮変形を引き起こすが,赤血球の慣性によりせん断力も高まり,短軸方向への変形を束縛することで剛体衝突するというモデルを考案した.赤血球の破壊の可視化に初めて成功し先駆的な研究成果を達成した.結果を国際会議で発表したところ600人の候補者の中からYoung Investigator Award 1st Prizeを受賞することができた.現在,学術論文を執筆中である.
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