Research Abstract |
ミラーセラピーが片麻痺者等に導入されて久しいが,鏡像観察中の皮質運動感覚関連領域の興奮性を検討した報告は希少である.本年度は,Mirror Boxによる鏡像観察が,非操作手の支配領域である対側の皮質運動感覚関連領域,及び同側の同領域の興奮性に変化をもたらすか否かを近赤外線分光法にて検討した.対象は,健常成人6名(25-39歳,全員右利き)であった.測定機器は,NIRS(ETG-4000)を用い,12chのファイバフォルダ(2セット)の中心部を国際10-20法のC3,C4にそれぞれ設置した.課題条件は,1)ボールの把握動作,2)二つのゴルフボールを反時計回りにて手掌内で回す,3)箸を使用して小ブロックを運ぶ3種とし,鏡像条件として,1)左手の動作を観察する,2)左手の動作が映っている鏡像を観察するとした.操作手は全て左手であり,被験者には右手が左手と同様の動作をしているようなイメージを想起するよう指示した.測定は,コントロール(を30秒,各動作条件30秒とし,3試行行った際の酸素化ヘモグロビンの変化量(Δ[oxy-Hb])の加算平均波形を算出し,得られた課題中のΔ[oxy-Hb]平均値を各条件間で比較した.その結果,全ての課題条件でNo-Mirrorに対しMirrorの左側の皮質運動感覚関連領域のΔ[oxy-Hb]が有意に増大した.しかし,右側の皮質運動感覚関連領域のΔ[oxy-Hb]は,鏡像観察の有無によって有意差は認められなかった.Mirror Box課題において鏡像を注意深く観察し,運動イメージを想起することにより,非操作手の支配領域である左運動感覚関連領域の興奮性を増大することが示された.つまり,操作手の運動感覚中枢である右側の運動感覚関連領域の活動は,擬似的体験により皮質内で促通が働き,左側の運動感覚関連領域の活動を促通したものと考えられた.
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