Research Abstract |
本研究の目的は,音声によりコミュニケーションをとることができない場合に,声を発することなく,口唇周辺の表面筋電信号から発話を認識することにある。喉頭癌等で声帯を切除した方ばかりでなく,疾患により体力が著しく消耗した場合にも発声は困難になる。また,静寂な環境が必要な状況や,プライバシー保護の観点から発声によるコミュニケーションが困難な場合や,騒音等,周囲の環境によって音声によるコミュニケーションができない場合もある。これらの状況に対して,口唇周辺の複数の筋肉から筋電信号を計測し,コンピュータにより筋電信号を基にした発話認識を行い,必要に応じて代用発声するというシステムの開発を目指している。今年度においては,母音を認識する為に,口輪筋,側頭筋膜,胸骨舌骨筋の三つの筋電計測で認識が可能ではあるが,発声の際に使用される口唇周辺の筋肉の筋電信号が,個人によってバラつくことが分かっており,このバラつきが大きいものなのか,小さいものなのかを被験者のデータを増やして検討した。このバラつきを評価する際に,ニューラルネットワークの一種である自己組織化マップを用いて解析を行った。バックプロパゲーションによる機械学習による認識では,無発声時の口唇動作が安定しない為に学習が十分に収束せずに,認識率が悪い結果が得られた。自己組織化マップでの解析では,安定しない動作においても,被験者間で同じような筋活動パターンが見られることが明らかになり,ある程度標準的な動作を見出すことができた。このようにして得られた標準的な動作を基に,使用者の口唇動作の訓練によるバイオフィードバックを積極的に利用した方法を検討し,誰でも簡単に使用可能なシステムを目指してゆきたい。
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