Research Abstract |
本研究の目的は,学習者と指導者の相互作用が動作のコツ習得に与える影響,及び学習者の相互作用に対する優れた指導者の関わりを明らかにし,最終的に動作のコツの指導モデルを構築することである.本年度は,前年度までの調査結果に新に収集したデータを加えて分析することで,学習者及び指導者の動作のコツ習得に対する信念を解明し,動作のコツ指導モデルを構築した.まず,スポーツ領域における優れた学習者の動作のコツ習得に対する信念は,「意図的な探索活動への志向」,「応答的な関係の構築」,及び「関わりを通した省察」の3点から説明されることが明らかとなった.優れた学習者は,動作のコツは与えられるものではなく,自らの意図的な探索によって習得するものであるという信念をもっていた.ただし,優れた学習者の信念は,他者との関わりを否定するのではない.むしろ,指導者や他の学習者との応答的な関係の中で自身の動作のコツを省察しながら洗練化しようとするものであった.次に,優れた指導者は,「学び続ける姿勢」,「自律的な思考の促進」及び「相互応答的な場の構築」という3つの信念によって学習者の意図的な探索を支援していることが明らかとなった.優れた学習者と指導者の信念は,普遍的な動作のコツは存在しないこと,動作のコツは学習者の意図的な探索によって習得されること,そして他者との関わりの中で動作のコツを省察することがコツを洗練化させるという3点で共通点がみられた.最終的に,これらの信念を学習者と指導者が共有することによって相互作用の質を向上させて動作のコツ習得を目指す動作のコツ指導モデルが構築された.これまで動作のコツは,その暗黙知的な性質から自得性や秘伝性が指摘されてきたが,本研究の成果である動作のコツ指導モデルによって学習者と指導者の信念を通した新たな指導方法の可能性が示唆された.
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