2010 Fiscal Year Annual Research Report
文化的-歴史的視座に基づく算数科における心理的道具と数学的思考の発達の関係の研究
Project/Area Number |
21700790
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
宮内 香織 長崎大学, 教育学部, 准教授 (00432964)
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Keywords | 文化的-歴史的視座 / 心理的道具 / 算数科 / 人工物 |
Research Abstract |
動物の行動の発達の3段階のうち、最終的な知性(あるいは合理的行動)の段階に到達するのは、「構造の移行」を実験中に示したチンパンジーのような類人猿と人間のみである(Vygotsky and Luria, 1930/1993)。さらにヴィゴツキーはそのような類人猿から区別される人間の行動の特徴として、人工的な記号の助けを借りた自らの行動の支配があることも指摘している。またトマセロ(1999/2006)によれば、(他の動物種と対比して)ヒトの文化的学習には、道具使用や記号行動の目的・目標の理解が必要であり、ヒトだけが他者を「通して」学習する一つまり「他者の心の中に自分を置いてその動きをたどる」-ことが可能であるという。 このような心理的道具使用に伴う人間行動の特質を踏まえ、心理的道具については、その道具自身の構造がどのようなものか〔(1)構造〕、何のために用いられるものか〔(2)目的・目標〕が示される必要がある(目的・目標が明らかになれば、その心理的道具の機能の限界はどこにあるかも明確になる〔(2)'限界〕)。さらにサイモン(1969/1999)は人工物(the artificial)を特徴づける構成要素として、上記2つに加えて「人工物が機能する環境」〔(3)環境〕も挙げている。また上記3つの心理的道具の構成要素と共に、心理的道具を通じた他者の心の動きの理解や自己の行動の支配〔(4)他者認識・自己支配〕をも考慮されねばならないであろう。これらを踏まえた心理的道具のデザインがより良い数学学習のために必要となってくる。 例)おはじきを用いた位取り表(佐々・山本,2010):〔構造〕(十進)位取り記数法、すなわち、おはじきの個数によって各位の数を表現、〔目的・目標〕数の表現、〔限界〕可能な数の表現はおはじきの個数(有限個)に依存、〔環境〕記数法の学習→〔他者認識・自己支配〕百のプレート5枚、十の棒7本、一のブロック4個で574を表すことなく、おはじきの個数と位置への配慮のみによって様々な数を表現可能
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