Research Abstract |
中学校の新学習指導要領「理科」には,放射線に関する記述が約40年ぶりに復活し,放射線教育に対するニーズが高まっている。しかしながら,放射線の測定には専用の検出器が必要となり,教育現場において自由に利用できる環境は整っていない。放射線の飛跡を観察できる霧箱は,身近な材料で作製できる唯一の教材ではあるが,観察時にドライアイスを必要とする不便さがある。本研究では,教育現場の教員が,継続的にかつ柔軟に使用できる新しい放射線教育用教材として,放射線の飛跡を視覚的に確認できるドライアイスを使用しない霧箱を開発してきた。 平成21年度は,放射線のエネルギーを吸収させた蛍光体の発光について検討を行った。粉末状蛍光体(銀活性化硫化亜鉛)と放射性同位元素を含む試料(例えば,微量のトリウムを含浸させたマントル)を混合させると,放射線作用による発光現象を暗室において観察でき,新しい教育用教材としての有効性が確認した。しかしながら,その蛍光体からの発光量は微弱なもので,学校の実験室環境では,放射線飛跡の観察は極めて困難であることが判明した。 今年度は,超音波振動子が作り出す霧を気化させることで,過飽和状態の領域をつくりだし,放射線の飛跡に伴うイオン化によって,再度,霧化させる条件を見出す。また,ドライアイスの代わりに,市販の冷却ガスやペルチェ素子を用いることで,霧化に必要な急激な温度勾配を生成し,放射線飛跡の観察を試みる。これらの研究項目を実施することで,教育現場の教員が継続的にかつ柔軟に使用できる霧箱を開発し,放射線教育用教材としての有用性を確認し,研究課題を終了する。
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