2010 Fiscal Year Annual Research Report
油彩技法の起源に関する東西壁画の技法材料の比較研究
Project/Area Number |
21700845
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷口 陽子 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 助教 (40392550)
|
Keywords | 油彩技法 / シルクロード / 壁画 / 化学分析 / 顔料分析 |
Research Abstract |
研究2年目となる本年度は、ルーマニアのホレズ修道院の壁画(17世紀末)を対象に調査を行った。ホレズ修道院には、中央教会と、その東西南北に配された4つの付属教会堂がある。それぞれの壁画は、中期ビザンティン様式とルネサンス様式を融合させたといわれるこの地方独特の様式の代表例である。ホレズ教会群のうち比較的オリジナルの状態が保存されている東の教会と、北の教会の壁画を取り上げ、使用されている色材と利用法について比較、検討を行った。現地調査において、壁構造の観察、線刻を伴う下描きの有無等の絵画技法の観察、ハンドヘルド型蛍光X線装置(InnovX社製α6500)による元素分析、可搬型小型顕微鏡(Microadvance社製)による粒子状態の観察、記録を行った。スペクトルは、MATLABソフトウェアを用いて主成分分析およびクラスター分析を行い、スペクトル間の相関を検討した。 分析の結果、スマルト、ブルーヴァディター、マラカイトとヴェルディグリの併用、オーカー、水銀朱、鉛丹、15世紀からルーマニアで使用される金箔、17世紀以降登場する銀箔という先行研究に調和的な結果が確認されたことに加え、相当量のヒ素系顔料、鉛と共存するスマルトの利用、銀箔の上に鉛を含んだ顔料とワニス状の有機物質による装飾が多用されていることなどが明らかとなった。緑色については、粒子形状やサイズの観察から、人造のグリーンヴァディターを利用した可能性が指摘される。東の教会の中で最も重要な人物像の衣や寄進の文字部分はすべて銀箔の上に鉛系顔料で装飾したものであり、箔の上にはワニス状の有機物質が塗布されていた。銀箔は暗色に変色しており、装飾も不明瞭になっている。このような箔、ヒ素系顔料の多用などは、西ヨーロッパよりむしろ、中央アジアの中世の彩色技法と強く通じる要素が多く、今後の比較研究の足掛かりとなる大きな成果が得られた。
|
-
-
-
-
[Presentation] アフガニスタン流出仏教壁画片の調査と修復(3)2010
Author(s)
木島隆康, 佐藤一郎, 工藤晴也, 増田久美, 松浦美代子, 谷口陽子, 中右恵理子, 籾井基充, 鳥海秀実, 宮田順一, 酒井良次
Organizer
第32回文化財保存修復学会
Place of Presentation
長良川国際会議場(岐阜県)
Year and Date
2010-06-13
-