2011 Fiscal Year Annual Research Report
油彩技法の起源に関する東西壁画の技法材料の比較研究
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21700845
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷口 陽子 筑波大学, 人文社会系, 助教 (40392550)
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Keywords | セッコ壁画 / 技法材料 / 油彩技法 / 化学分析 / シルクロード |
Research Abstract |
本研究は、研究代表者によってはじめて明らかにされた「世界最古の油彩技法」が中央アジア・アフガニスタンのバーミヤーン仏教壁画で使用されたという事実を踏まえ、さらに周辺領域に視点を広げて、油彩技法や油性塗料の起源・由来を明らかにすることを目的とするものである。これらの壁画は、すべて練り土からなる壁に、有機物質を膠着材とした絵具を使用して彩色をしたいわゆる「ア・セッコ」技法によって描かれたものであった。 本年度は、西野技法調査の継続として、2010年に行った、ルーマニア・ホレズ教会の壁画調査のデータを解析した。ホレズ教会の壁画からは、スマルト青の多用、グリーンヴァディターという合成のマラカイトの利用が見られたが、一方で、古代中央アジアと強く類似する錫箔、ヒ素系の黄色等の多用が認められた。中央アジア的な技法材料がヨーロッパに入って変遷する様が観察された。また、本年度は、東の技法調査として、2010年3月にドイツのアジア美術館(ベルリン)等に収蔵されている中央アジア・西域の壁画片の調査、分析を継続して行った際に得られた、光学的な分析と、蛍光X線による元素分析のデータ解析を行った。イラン、インドの壁画と異なり、キジル千仏洞の壁画には、多くの黄色部分と有機物質が使用されたと考えられる部分が褪色しており、鉄線描と金属箔が多用された技法がみられることが特徴的であった。携帯型実体顕微鏡等を用いた表面観察によれば、キジル千仏洞の壁画には、多くの有機物質の変褪色や無機物質の変質等が観察された。しかし、乾性油の利用を裏付けるようなデータは現在のところまだ認められていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ルーマニアのホレズ教会、キジル千仏洞壁画(ベルリンアジア美術館所蔵)の調査を実施し、分析データの蓄積も得られている。多糖類の分析については、現在成果が上がりつつあるところである。
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Strategy for Future Research Activity |
相手機関との合意書締結の問題から、微小試料が充分得られていないため、次の段階となる機器分析作業は、研究復帰後の課題としたい。
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