2010 Fiscal Year Annual Research Report
人骨に認められる刑罰痕の研究-打ち首・さらし首を例として-
Project/Area Number |
21700852
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Research Institution | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
Principal Investigator |
橋本 裕子 独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (90416412)
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Keywords | 骨考古学 / 刑罰 / 打ち首 / さらし首 |
Research Abstract |
今年度は人骨資料で「打ち首」の痕跡を残す人骨について、刑罰に関する絵画や文献史料と人骨の年代を比較し、刑罰の方法と処罰後について考察した。江戸時代の処刑城跡地として認知されている地域では、江戸時代以外の打ち首の痕跡を残す、もしくは打ち首と推測される人骨の出土例は少ない。中世に政治の中心となった鎌倉幕府が所在する神奈川県で刑罰痕のある人骨が確認できた。 神奈川県鎌倉市の今小路西遺跡出土人骨は、2体とも頭骨のみの出土で、頸椎に打ち首の痕跡が明確な男性であった。神奈川県逗子市の名越切通遺跡出土の頭骨は、やぐら奥部の土坑から出土した。性別は女性である。頭部に4ヶ所、孔が穿たれていることが確認できた。孔は一辺が4~5mm程の隅丸方形で、正面からほぼ垂直な角度で、額に垂直方向で穿たれている。穿孔時に使用された工具は、和釘のような断面が四角形のものを利用したと推測した。後頭骨に刀傷の傷跡は無いが、やぐら内部からの出土状況は、頭骨のみが埋葬可能な大きさの楕円形の土坑から出土しており、頭骨のみを埋葬する為の土坑と判断できる。頭部の孔が、「さらし首」のために穿たれたと仮定するならば、頭部における孔は、孔の数、大きさ、位置などから、絵画資料『平治物語絵詞』の「さらし首」と非常に酷似している。また、絵画では頭部をつるす紐をどのように通しているのか判断できかねるが、名越切通遺跡人骨のように、釘を利用したと仮定するならば、頭部をつるす紐の状態が理解できる。女性の「さらし首」についての絵画資料や文献は、現段階では確認できていない。 江戸時代の「さらし首」は木製の板や台の上に首を置くのに対し、それ以前の「さらし首」は文字通り「獄門首(牢獄の門)」に吊るされるという方法が取られていたことが絵画から確認でき、また絵画のような「さらし首」となった人骨が実際に出土し、処罰の後に埋葬されるということまで確認できた。
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