2011 Fiscal Year Annual Research Report
東アジア海草相の遺伝的構造に影響する生態及び海洋環境要因の解明と保全への適用
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21710248
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
田中 法生 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (10311143)
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Keywords | 海草 / 遺伝的構造 / 固有種 / 保全 / 遺伝的多様性 |
Research Abstract |
コアマモZostera japonica(アマモ科)は、日本列島を中心にサハリンからベトナムまでの潮間帯~潮下帯、沿岸の汽水域などに生育する。海草の中では最も広い生育温度域を持ち、葉などの形態変異も大きいため、種内分類群や生態型が示されることもあった。そこで、分布域全体からの60集団について、葉緑体DNA(psbA-trnH、trnL-F)と核DNA(phyB)の塩基配列を決定し、種内の遺伝的構造を解析した。その結果、ハプロタイプ解析では、葉緑体と核のいずれにおいても、本州中部地域から主に北に分布するハプロタイプ群と南に分布するハプロタイプ群が存在し、系統的に起源の異なる2つの系統群にあたることが明らかになった。境界領域では交雑している個体が検出されたことから、両グループ間で完全な生殖隔離が起きているわけではない。系統的に姉妹種にあたりヨーロッパに分布するZostera noltiiは、コアマモの内群となることがわかり、遺伝的な変異も非常に小さいことがわかった。これは、Z.noltiiの起源が大陸移動による分断ではなく、移住による可能性が高いことを示唆している。さらに、マイクロサテライト解析により、Z.japonica-北とZ.japonica-南それぞれのクラスター内で、いくつかの地理的なまとまりが見られた。しかし、アマモZ.marinaで見られたような地理的要因と遺伝的構造の明確な関係性は検出されなかった。これは、種子が花茎と共に海流散布されるアマモに対して、コアマモでは干潟に生息する水鳥による種子散布が海域のまとまりを崩している可能性が考えられた。また、タチアマモ、オオアマモ、スゲアマモの各地のサンプルに関して、葉緑体DNA(psbA-trnH、trnL-F)と核DNA(phyB)のシーケンスを開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、日本近海の固有アマモ種全体を扱う予定であったが、最初に着手したコアマモにおいて、種内での2系統の存在や、ヨーロッパ、北米種との関係など、予想外の興味深い結果が得られた。そのため、コアマモに関する研究を深く進行させるために、他の種への着手が遅くなった。しかし、コアマモで得られた成果は当初の予想以上のものであるため、全体としての達成度としては十分に予定通りと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、コアマモ以外の種についての解析を優先的に遂行する。遂行上の問題は特にない。
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