2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21710253
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 弓 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特任講師 (50466819)
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Keywords | 日中戦争 / 記憶 / オーラルヒストリー / 中国農村調査 / 中国農村演劇 |
Research Abstract |
内容 (1)戦争体験の掘り起し 戦争中漢奸とされた人々の出身村及びその家族を中心に聞き取り調査を行った。戦争当時日本軍の通訳を務めた陳志誠は日中戦争の「順口溜」も残しており、実態の掘り起しとあわせて考察対象とした。 (2)「順口溜」の調査 「趙家荘惨案」(趙家荘での虐殺事件)を歌った「順口溜」について聞き取り調査を行い、劇中歌として編まれた歌の全体像の把握に努め、数バージョンを収集した。 (3)農村演劇について 7月15日(旧暦)の農村演劇(晋劇)を参与観察した。農村演劇は午前、午後、夜と1日3回、連続3日間行われる。今回は3村の演劇を参与観察し、観衆の様子、舞台裏、演劇誘致の事情について聞き取りを行った。また、この地域で演じられる晋劇の演目と現地の伝承との関連性について考察をおこなった。 (4)都市での聞き取り 北京市内の聞き取り対象の選定を行った。景山公園(中心)、月壇公園(東)、日壇公園(西)、天壇公園(南)、地壇公園(北)を訪れて、北京の各地域にどのような階層の人々が住み、何を聞き取れるかを調査した。また、牛街(北京のムスリム居住区)を調査し、漢族以外のコミュニティを含めた北京全体を把握した。 意義及び重要性 本研究はオーラルヒストリーによって歴史を捉えなおす試みである。各調査内容は次のような意義を有する。まず、「漢奸」は政治的な問題から日中戦争史の中でほとんど言及されておらず、その調査は歴史の空白を埋める意義を有する。次に、「順口溜」は文字資料のない農村実態を伝える口頭メディアで、その内容と伝達範囲からコミュニティを捉えることができる。農村演劇も同様に、農民たちの精神・文化生活を支える活動であり、参与観察することによって説話や民衆意識の上での農村コミュニティを捉える可能性を有する。そして、北京での実態調査は、北京という都市がどのように形成され、どのように変化してきたかをそこに住む人々から読み取る新しい試みであると言える。
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