2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21720003
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
千葉 建 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 講師 (80400620)
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Keywords | カント / アーレント / 先入見 / 共通感覚 / 判断力 |
Research Abstract |
本研究の目的は、カントの「先入見」批判に関する倫理学的意義を解明することにある。平成22年度は、カントの先入見論を「世界市民主義(コスモポリタニズム)」との関連において究明することを目指したが、それにあたって、ハンナ・アーレントのカント読解を一つの有力な参照軸として用いた。 アーレントの判断論のうちには、ギリシア的な政治活動を強調する「ポリス」の思想家としての側面と、カント的な普遍性を志向する「コスモポリス」の思想家としての側面がともにあることは、従来から指摘されてきた。しかし両側面を、ベイナーのように前期から後期への移行とみなすにせよ、あるいは観点の違いにすぎないとみなすにせよ、両側面の関係が十分判明にされてこなかったと言える。そこで本研究は、アーレントの判断論における「特殊主義」的側面と「普遍主義」的な側面の関係について「先入見」という視点から再検討を加え、次のことを明らかにした。 まずアーレントは、先入見を自動的な判断基準にしてしまうことを批判したが、先入見そのものを全面的に退けているわけではない。先入見は「過去の判断」として一面の真理を含んでいるのである。そして、アーレントはカントに倣って「判断」を可能にするのは「共通感覚」であると考えるが、その共通感覚は現在の判断と過去の判断すなわち先入見によって形づくられる。つまり、共通感覚は、先入見の積み重ねで豊かにされてゆくとともに、前例のない出来事に直面したときには、新たな判断によってより普遍的なものへと更新されなければならないものなのである。その意味でアーレントの立場は「特殊主義に根ざした普遍主義」と特徴づけることができるだろう。 以上の成果は、アーレント研究の根本問題への寄与となるだけでなく、カントの判断論や政治哲学の研究にも重要な視座を提供するものである。
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