2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21720003
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
千葉 建 筑波大学, 人文社会系, 講師 (80400620)
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Keywords | カント / マイアー / メンデルスゾーン / 先入見 / 啓蒙 / 理性の公的使用 |
Research Abstract |
本研究は、カントの「先入見」に関する議論を、ドイツ啓蒙主義のコンテクストにおいて検討し、その倫理学的意義を解明することを目的とするものである。平成23年度は、ヴォルフ学派における先入見論を研究し、とくにG・Fr・マイアーの著作を中心に検討した。また、ヴォルフ学派の影響を受けたM・メンデルスゾーンにおける先入見論と啓蒙論との関係を考察することによって、カントの啓蒙論の意義を再検討した。 マイアーの先入見論をカントの先入見論と対比させることで、先入見についてのカントの理解が、基本的にマイアーに多く負っていることが明らかになったが、カントはマイアーの議論すべてを受け入れているわけではなく、「先入見」を「憶測」から区別するなど、いくつかの修正を加えていることが分かった。このようにカントの術語を伝統思想との対比のもとで明らかにすることは、カント思想の革新性を理解するうえで重要な作業である。 また、メンデルスゾーンの啓蒙論における先入見論に照らして、カントの先入見論を考察した結果、啓蒙に対する二人のスタンスの違いが判明となった。カントは、理性の公的使用は無制限に認めるべきだが、理性の私的使用は制限されて構わないと述べたが、メンデルスゾーンは、私的使用においても一層の自由を認めることができると論じている。これは一見すると、メンデルスゾーンの方がより進んでいるように思われるが、あくまでも統治の立場から啓蒙を進展させる可能性を認めようとしたものであり、それに対してカントは、人民の側が議論し、納得した範囲内で改革を進めてゆこうとする立場である。こうした比較によって、従来注目されてこなかったカント先入見論の実践的次元が明らかになったと言える。
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