2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21720009
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
柿木 伸之 Hiroshima City University, 国際学部, 准教授 (60347614)
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Keywords | 哲学 / 美学 / 思想史 / 記憶論 / 文学論 |
Research Abstract |
本研究は、言語活動を他の言語への応答およびその翻訳として考察するベンヤミンの言語哲学と、非随意的な記憶を既成の歴史の連続性に抗する言葉のうちに救い出すことのうちに支配者が「正史」として語るのとは別の歴史の可能性を求める歴史哲学がいかに接続されうるのかを探究することを通じて、そうした「正史」ないし「ナショナル・ヒストリー」に回収されることのない、他者に応え、他者たちのあいだで応え合うような記憶の言葉の可能性を、哲学的な理論として提示することを目的とするものであるが、その準備作業として、平成21年度は、ベンヤミンの思想の研究を他の思想家や文学者との布置において深化させようとする文献研究とともに、ナチス・ドイツの強制・絶滅収容所の跡を訪れるフィールド・ワークを行なった。前者の文献研究をつうじて、パウル・ツェランや原民喜といった文学者の詩的作品を、ベンヤミンの思想の理解を踏まえつつ新たに読み解くことで、記憶する言葉の可能性を探るという課題が浮上したので、その課題に取り組む方向性を示す論考を、平成22年度中に共著書のかたちで公表する予定である。なお、本論考は、広島における記憶の現在を問い直しつつ、記憶する言葉の探究としてベンヤミンの思考を捉え直し、それを原民喜とパウル・ツェランの詩作の読み直しに生かす方向性を示すことで、記憶する言葉の可能性を示唆する構成である。また、平成21年度に刊行された共著書に収められた論考「他者との来たるべき共生へ向けた哲学的試論-歓待と応答からの共生」も、未だ歴史になっていない記憶の分有を、歴史的な応答責任を踏まえた他者との共生に結びつける可能性を示す一節を含んでいる。ヴァイマルのブーヘンヴァルト強制収容所跡とアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制・絶滅収容所跡におけるフィールド・ワークは、記憶の表象のあり方や記憶の形象の可能性について考えさせられることの多いものであったが、それをつうじて得たものは、平成22年度のフィールド・ワークの成果も踏まえつつ論考にまとめたい。
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