2010 Fiscal Year Annual Research Report
中枢神経系障害における身体行為メカニズムの現象学的解明
Project/Area Number |
21720011
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
稲垣 諭 東洋大学, 文学部, 助教 (80449256)
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Keywords | 身体行為 / 現象学 / リハビリテーション / 気づけなさ / 精神分析 |
Research Abstract |
身体への気づきは、進化的な生存戦略から見てもそれほど自明ではなく、必ずしも必要とはいえない高等動物における特殊な気づきのモードである。本来、気づき、そしてそこからの注意は、自らの外部へと向かう傾向をもつ。周囲の環境に変化が起きたさい、そのことに気づき、それに基づく適切な行為が実行できていれば、身体への気づきはほとんど不要である。にもかかわらず、人間を含む高等動物には、身体への気づきが不可避的に伴う。ここには痛みの神経機構が発生したことも密接に関連している。特に身体能力や身体技能を発達の中で様々に開発し、展開する人間のような高度に複雑化した神経系においては、気づきと非-気づきの境界に何重もの機能性のネットワークがかけられている。そのため必要なときに適切な気づきが生じないことで、逆に特殊な病理が複雑化する。あるいは気づきが生じないことが、生体そのものの意識や思考、動作の安定化を維持している。そうした仕組みを、リハビリテーションの現場、および精神病理の知見をもとに分析を行うことが今年度の主題となった。こうした課題設定は、身体行為の可能性、特に身体運動から動作へとつながっていく発達のプロセスを理解するためにも必要となる。もしくは、情動や感情の固着とその解放にかかわる精神分析における臨床経験とのつながりも出てくる。特にフロイトは、人間の「気づかなさの病理」とでもいうものをいち早く定式化していた。とはいえ、情動・感情系のバイアスがかかった気づけなさと、中枢神経系そのものの変容(運動障害、感覚障害)から見た気づけなさは必ずしも一致せず、むしろ気づけなさの病理の類型をさらに詳細に見ていく必要に迫られ、本年度はその足掛かりを築いたことになる。
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