2009 Fiscal Year Annual Research Report
パウル・クレーとアジア・オリエント――1920年代の作品と思想を中心に――
Project/Area Number |
21720035
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
野田 由美意 Seijo University, 文芸学部, 非常勤講師 (00537079)
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Keywords | 美術史 / 比較文化 / パウル・クレー |
Research Abstract |
クレーの創作活動にアジア・オリエントは重要な位置を占めているが、従来の研究においてその関係の全容は未だに解明されていない。研究代表者は、クレーとアジア・オリエントとの関係には1909年から第一次大戦終結までに第一次ピーク、1919-24年に第二次ピークがあると考える。前者の問題については博士論文で考察の対象としたが、本研究では特に後者を、(1)クレーの読んだ本、(2)関連する作品の調査から取り扱う。 平成21年度は、ベルンのパウル・クレー・センターとクレー家コレクションに保管されているクレー家の蔵書や、クレーの日記・書簡等から、アジア・オリエント関係の本を全て調査した。またクレー家の蔵書で現存する資料については、本の中の書き込みや入手経路も調べ、それらの情報についてリスト化を行った。第一次大戦終結以前と考えられる収集と1919-24年と考えられる収集を比較すると、大戦終結以前の場合、特に大戦中、詩や物語についての本が多いのに対し、1919-24年の場合は、特に1920-22年に集中して美術に関する本が多く、クレーが文字情報よりもっと具体的かつ新たなイメージ・ソースを積極的に探し求めていたことが分かった。また全体にそれらの本が扱う時空間は多様性に富んでいるものの、美術書以外のものでは明代短編小説選集の『今古奇観』や道教、仏教に関する本などが中心となる。さらに、クレーがこれらの本を集めた歴史的背景を調べた。この調査から、ヴァイマール・バウハウスにおけるアジア・オリエントへの文化的関心の高さを背景に、クレーがそれらについての多様な情報を積極的に摂取し、興味深い未知の領域に制作のヒントを模索していたことが判明した。これらの調査は本研究において初めて行われ、クレーのアジア・オリエントへの関心のあり方が具体的に明らかにされた点で意義があり、今後のクレー研究の一つの重要な基礎となるだろう。
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Research Products
(2 results)