2009 Fiscal Year Annual Research Report
レコード音楽の表現形式に関する理論と分析方法の構築:空間表現を中心に
Project/Area Number |
21720046
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Research Institution | Asia University Junior College |
Principal Investigator |
谷口 文和 Asia University Junior College, 短期大学部・経営科, 講師 (50535515)
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Keywords | ポピュラー音楽研究 / 音楽学 / メディア表現 / レコード音楽 / 空間表現 |
Research Abstract |
1年目にあたる平成21年度は、レコード音楽における空間表現の成立条件について、理論的側面から検討した。 年度前半ではまず、関連文献の収集とそこでの議論の整理を行った。映画や漫画といった他のメディア表現ジャンルの研究において空間表現の形式がどのように理論化されているかを把握し、レコード音楽にも同様の議論がある程度まで応用可能であることを確認した。他方、視覚表現が基本的にメディアによって用意されたフレームの内側で成立するのに対して、聴覚表現であるレコード音楽においては、表現のフレーム自体がオーディオ環境と聴き手の相互作用を通じて成立するものであり、そのあり方も含めて理論が構築されなければならないことが明らかになった。 後半では、音によってもたらされる空間のあり方を検討した。計画当初では、音が鳴り響く「現実の空間」と、レコード上に表現された「架空の空間」という対比を設定していたが、上述のような視覚表現と聴覚表現の違いを考慮するならば、この二分法はそのまま適用できないことが明らかになった。人は元より様々な音を通じて身の回りの空間を認識しているが、レコードに記録された音は再生されることで、その空間認識に干渉する。それと同時に表現としての空間は、現実の再生環境に大きく依存する。したがって、作り手によってメディア上に固定された音がそのまま表現となることは、多様な聴取のフレームのうち特定のタイプにおいてしか成立しない。しかしむしろ、多様なフレームにおいて立ち現れる空間認識こそ、レコード音楽の表現形式に特有の問題として理論化されるべきである。これは従来の議論には見られなかった本研究独自の見解である。 以上の成果にもとつく本研究課題の中間報告は音楽文化を特集した雑誌に論文として掲載されるかたちで、平成22年度前半に発表される予定である。
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