2011 Fiscal Year Annual Research Report
文政年間刊の読本をめぐる江戸・上方間の書物交易<本替>の実態調査
Project/Area Number |
21720072
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Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
木越 俊介 山口県立大学, 国際文化学部, 准教授 (80360056)
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Keywords | 近世 / 出版 / 流通 / 類板 |
Research Abstract |
本替という問題そのものについては、周辺資料が少ない中ではやはり状況証拠となるものしか提示できないことが予想されたので、2年目以降は関連する問題群に少し目を広げて研究を続けた。その結果、具体的には、上方読本と江戸読本との内容的な差異や類板の問題について考究した。その中で、『国書総目録』などでは文政年間に刊行されたとされてきた武内確斎作『絵本室之八島』(二世玉山画)という上方読本について注目し、研究史上初めて「文化五年」の刊記を有する早印本を発見し、作品研究を行った。その結果、上方読本の中でも極めて江戸読本の作法に近い作風であることが分かった。例としては、作品の細部を考証で固めていること(『吾妻鑑』が最も多用されている)、曲亭馬琴・山東京伝の文化二~四年刊の読本作品(『新累解脱物語』、『勧善常世物語』、『善知安方忠義伝』、『昔話稲妻表紙』)、を研究した上で、構成法などを深く取り入れていること、さらに、同時期に「類板」とされた(すなわち趣向上多くの類似点を持つ)上方読本『竹箆太郎(しっべいたろう)』(栗杖亭鬼卵作)と比較した結果、登場人物の背後にいる猫や犬の霊力が、『絵本室之八島』では超越的に描かれるのに対し、『竹箆太郎』ではあくまで人間の意志に隷属するものとして扱われるという大きな相違点が認められた。全体として、『絵本室之八島』が極めて江戸読本的な特色を多く有することを明らかにした。この成果を、論文「武内確斎:『絵本室之人島』考」(2012/6刊行予定)としてまとめた。
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Research Products
(1 results)