2010 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本語=言文一致テキストにおける「植民地体験」の表象をめぐる表現論的検討
Project/Area Number |
21720073
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Research Institution | Hokusei Gakuen University |
Principal Investigator |
宮崎 靖士 北星学園大学, 社会福祉学部, 准教授 (10438351)
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Keywords | 日本文学 / 近代文学 / 日本語文学 / 日本語学 / 植民地 / 表象 / 言語政策 |
Research Abstract |
本年度は、1930~40年代における植民地向けの言語政策と、その論者の検討に主眼をおき、特に時枝誠記と保科孝一の検討について、大きな成果を得た。時枝に関しては、1940~41年という、『国語学史』および『国語学原論』をまとめていく時期に時枝が考案した論理装置の性格とその意義を、単行本収録以前の初出論文を追跡することで明らかにした。その要点は、国語研究者の国語への向きあい方を「主体的立場」を包含した「分析的立場」として規定し、そのような視点から捉えれらえる「国語」を分析の対象として措定した点と、国語研究者と国語の話し手とが均質な「主体」性を共有するという前提を確立した点に求められた。そして1941年までに確立されたそのような理論体系が1942~43年にかけて発表される「朝鮮」の教育政策に関するエッセイに引き継がれ、応用されていく旨を明らかにし、それを同時代に発表された朝鮮人作家における日本語文学の表現傾向と対照することまでを果たした。また保科孝一に関しては、1910年代におけるヨーロッパ留学の成果として確立した彼の言語政策論と、1940年代にさかんとなった大東亜共栄圏をめぐる言語教育論との関係性に注目した。そして、保科の独自性が、1910~20年代にかけて(大正期に相当する時期)の日本国内における一般的な思想傾向(大正的な言説傾向)と異質な、「他者」認識とそれに対する危機意識に貫かれたものであった点に求められることを明らかにした。そのような保科の傾向は、上記の時枝誠記や、次年度の検討対象である柳田国男の場合と対比することで、よりその独自性を理解できるものと考えられる。 また、それらの作業と並行して、継続的な検討課題である、小説を中心とする日本語テキストにおける表象傾向の類型化をと、日本語文学者の表象傾向の特質に関する検討も継続し、その成果を論文として公表することができた。
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