2011 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本語=言文一致テキストにおける「植民地体験」の表象をめぐる表現論的検討
Project/Area Number |
21720073
|
Research Institution | Hokusei Gakuen University |
Principal Investigator |
宮崎 靖士 北星学園大学, 社会福祉学部, 准教授 (10438351)
|
Keywords | 日本文学 / 民俗学 / 柳田国男 / 植民地研究 / 表現論 / 方言論 / 山人論 / 委任統治委員 |
Research Abstract |
まず第のに、『後狩詞記』『遠野物語』『石神問答』に共通する構成面の特色を検討した。そして、冒頭に用意された「序」や「題目」「概要」が、後続する資料紹介的な部分の内容を十全に紹介・要約していない点に注目し、それが読み手におけるテキストの新たな解釈や意味づけを可能にする工夫となっていると同時に、明治後期に転換期を迎えた「海外移民」をめぐる動向への関心と接点を保つ通路となっていることを明らかにした。続けて第二には、大正期における「山人論」、及び国連委任統治委員期における体験に関わる文章群、更には帰国後「日本民俗学」の確立までに発表したテキスト群を特に方言論を中心として検討した。そして、人間をある土地と基本的な習慣(=言語)に属する存在とすることで、その土地と言語を基礎とする同一性を、犯すべからざる「民族」の核心として抽出しようとする視点と方法が確立されていくプロセスを明らかにした。 如上の検討成果を柳田における著述傾向の展開として総合すると、第一次大戦後のヴェルサイユ体制において実現される植民地主義の転換への潮流と呼応しつつ、あるべき「日本」の国際的な立ち位置を確立しようとした柳田の軌跡が浮き彫りとなる。それは、国際的な状況の変化に対応した「日本語表現」の試みという点で価値をもつと同時に、そのような展開において、逆説的に論述の対象が「内地」の歴史的事象に限定され、その展開において介在していた国際関係が検討の視野から排除されていくという問題点をも伴うものであった。そのような本年度の検討成果は、本研究全体の中において、言文一致体、及びそれにより構築される表象システムから、記述の言語(明治後期の三部作)と検討対象の言語(昭和初期の方言論)の双方にわたって距離を保つ表現の試みが、明治後期から終戦期までを通じた日本の拡張的な植民地進出への批評的な関与とともになされた事例の発見という点で、大きな意義をもつ。
|