2010 Fiscal Year Annual Research Report
日本近代文学におけるアメリカのdime novelsの影響
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21720077
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
堀 啓子 東海大学, 文学部, 准教授 (60408052)
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Keywords | 尾崎紅葉 / 小栗風葉 / Bertha M.Clay / Charlotte M.Brame / 黒岩涙香 |
Research Abstract |
申請者は今年度Charlotte M.Brameというdime novelistに焦点を当てた。この作者は申請者が昨年度、主として調査していたBertha M.Clayという作者の本名である。だが両者は同一人物であるというわけではなく、Bertha M.Clayとはhouse nameと総称される出版社管理の筆名であり実際にこの名を共有する作者は本人を含めて複数名いる。そのためCharlotte M.Brameの作品はBertha M.Clayの名前で発表された作品のうちの一部である。 じつは予ねて、日本近代文学を代表する作者である小栗風葉の大正四年の作品「脚本 奇縁」がこのCharlotte M.Brameの原作をもとにした翻案作品であることは知られていた。「脚本 奇縁」の序文に小栗風葉自身が「原作者シャロット・ブレーム女史」の作品をもとにして「爰には一篇の骨子を採りて」と翻したことを明言しているからである。だが、こうした近代文学のご多分にもれず、ここで風葉は、「ブレーム女史」のどの作品を原作としたのかは明記しておらず、従ってこの原作もCharlotte M.Brameの、何というタイトルの原作をもとにした翻案なのかは、今日まで不明とされてきた。 申請者は今年度の科研費の補助により、アメリカの大学の図書館に赴き、Charlotte M.Brameの原作を虱潰しにあたり数百冊の中から、この原作がTwo Kissesという作品であることを発見し、原作として措定した。この研究の成果は、日本比較文学会の「比較文学」に発表した。 また小栗風葉の師であり、この風葉の翻案に多大な影響を与えた尾崎紅葉の翻案手法については、「『金か愛か』の名作」(「三田評論」慶応義塾大学出版会2010年5月)にもエッセイとして掲載された。こうした当時の翻案手法や著作権、同時代の「書くこと」への倫理観については、文学に限らず、種々の分野にまたがった意見を交換する形でシンポジウム発表も行った。 日本学術振興会の事業「ひらめき☆ときめきサイエンス」にも採択され、一般の高校生諸君に研究の一端を紹介でき、ご好評を戴いたことも、本年度の研究成果の一端としてご報告させて頂きたい。
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