2009 Fiscal Year Annual Research Report
源氏物語本文に関する伝承と本文変容の連動性について
Project/Area Number |
21720080
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Research Institution | Kogakkan University |
Principal Investigator |
中川 照将 Kogakkan University, 文学部, 准教授 (20410920)
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Keywords | 源氏物語 / 享受史 / 本文 / 青表紙本 / 藤原定家 |
Research Abstract |
本研究の目的は、源氏物語諸本における異文の発生原因とその過程を解明することある。この目的を達成するための第一段階として、本年度は当初の計画通り、以下の2点の作業を行った。 <A>鎌倉~室町時代成立の『源氏物語』注釈書における異文注記の摘出とデータ化 <B>鎌倉~室町時代成立の『源氏物語』注釈書、並びに関連史料に見える『奥入』に関する伝承の収集と分析 これらの作業を通して得られた成果<A>をもとに発表したものが、「淘汰された定家筆本源氏物語-《青表紙本》形成のモノガタリ」(本書類「11.研究発表(平成21年度の研究成果)」-〔図書〕項参照)である。 本論文は、源氏注釈書『仙源抄』に焦点をあて、(1)長慶天皇が所持していたとされる定家本『源氏』の実態を明らかにした上で、(2)かつては本文の異なる定家本が複数存在していたこと、(3)それら内容の異なる複数の定家本が、時代の変化とともに青表紙本という一つの術語・概念のもとに、一つの形へと統合・淘汰されていく過程を明らかにしたものである。 この研究結果は、"正統な青表紙本本文とは何か"を判断しようとする際に用いられる基準が、現在のわれわれと、鎌倉~室町時代当時の人々とでは根本的に異なっていたことを示すものとしてある。 ならば、鎌倉~室町時代における基準はどこに置かれていたのか? この問題を明らかにするための作業が<B>である。諸注釈等を調査した結果、鎌倉~室町時代においては、現代の源氏研究が重視する<本文>の形態に関する基準(=<A>)よりも、むしろ<伝本>の形態に関する基準(=<B>)の方に重きが置かれていたのではないかとの見通しを得ることができた。この点に関しては、22年度に研究成果を発表する予定である。
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