2010 Fiscal Year Annual Research Report
占領期日本におけるGHQ日本民主化政策と翻訳許可アメリカ図書
Project/Area Number |
21720088
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
鈴木 紀子 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 準研究員 (40522123)
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Keywords | 西部 / 占領 / 翻訳図書 / アメリカ文学 / 民主化 / GHQ / 冷戦 / 思想教育 |
Research Abstract |
本研究の目的は、未だ占領研究で明確にされていない戦後日本民主化とアメリカ文学の関連性を、占領下GHQによって翻訳されたアメリカ図書を通して解明することである。この目的に添い、本年度は、戦後占領期GHQによって日本人のために翻訳・読書奨励されたアメリカ文学作品、とりわけ「西部文学」と呼ばれる19世紀アメリカ西部開拓時代をテーマとする作品に焦点を当ててGHQ日本民主化政策と文学の関係を考察した。 この研究の成果は、まず、GHQが行った日本民主化政策には、西部開拓時代から現代アメリカ社会に存在し続ける「西部フロンティア」をめぐる言説が深くかかわっていたことを明らかにした点である。GHQが占領下日本に移植しようとしたアメリカの理想的思想・国家像は、伝統的西部言説が象徴する開拓者精神や民主主義に由来するものであったことが分かった。この結果は、「西部」という一世紀以上も前のアメリカの歴史的・社会的事象が、時代と文化的・地理的境界を越えて戦後アジアの国日本で再生されたことを示す点において画期的である。 更に本研究は、西部と民主主義をめぐって日米間に意味解釈上の齟齬があったことを明らかにするという大きな成果を挙げた。日本人読者は、GHQの思惑に反し、西部文学を「自らの」戦争体験とする創造的な読みを行うことにより、日本人としてのナショナル・アイデンティティを再構築させたのである。この日米間の齟齬はこれまでの占領解釈に複雑性を与え、占領史研究に新しい視座を与えたと言ってよい。事実、この研究の斬新さが、今年度10月に日本アメリカ文学会全国大会において認められ、発表会に参加していた数名の研究者と研究書を共同出版することになった。当著は平成23年初夏刊行予定である。
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