2009 Fiscal Year Annual Research Report
英国モダニズム文学における〈情動〉と「公共性」の変容
Project/Area Number |
21720101
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Research Institution | Tsuda College |
Principal Investigator |
秦 邦生 Tsuda College, 学芸学部, 専任講師 (00459306)
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Keywords | モダニズム / 文学 / 情動 / 公共性 |
Research Abstract |
本年度は3年に渡る研究計画の初年度にあたるため、基礎的・理論的研究の充実を図るとともに、抽象的になりがちな<情動>理論を具体的に考察するためは欠かせない歴史的・社会的条件との関係について理解を深めた。本研究の主な焦点は20世紀前半のモダニズムにあるが、その現代への継承という観点から、まず南アフリカ出身のポストコロニアル作家J.M. Coetzee(モダニズムに深い影響を受けている)の小説『恥辱』について論文を執筆し、7月に出版した。この研究の結果、一方では具体的な歴史・社会的問題に発しつつも、同時に困難な共同性の可能性をかいま見させる「恥辱」という情動の特殊な性格について理解を深めることができた。夏にはVirginia Woolfの情動表現と、第一次大戦前後の前衛芸術運動について論文を執筆し、10月に出版した。この論文は、Woolfのモダニズムと、イタリア未来派の前衛芸術とのあいだの、従来顧みられてこなかった関係を当時の「公共性」の変容という見地から探求したものである。この研究で私は、従来は反感情的なものとして理解されてきた「没個性(impersonality)」の美学を、モダニズムの情動への関心という観点から捉えなおす可能性を示唆した。また、情動を理解するためには、身体性の問題、さらにその特殊近代的支配形態である「生政治(biopolitics)」との関係性を探求する必要があり、このような理論的観点の検証のために、2009年11月には日本英文学会関東支部にて、他の研究者2名とシンポジウム「バイオポリティカル・モダニズム-ジェンダー、人種、アメリカ」を行った。このシンポジウムにおける口頭発表で私はWyndham Lewisにおける人種観と、彼の諷刺小説における特殊な情動表現との関連性を探求した。この問題設定は非常に大きな歴史的射程を持つものであり、今後さらに研究を深める必要がある。
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Research Products
(3 results)