2011 Fiscal Year Annual Research Report
ヘミングウェイの遺作:オリジナル原稿の編纂方法とその問題点に関する総合的研究
Project/Area Number |
21720105
|
Research Institution | Bunkyo Gakuin College |
Principal Investigator |
フェアバンクス 香織 (杉本 香織) 文京学院短期大学, 英語科, 助教 (70409613)
|
Keywords | アメリカ文学 / アーネスト・ヘミングウェイ / 死後出版作品 / マニュスクリプト研究 |
Research Abstract |
本研究は、ヘミングウェイの死後出版作品のオリジナル原稿を、遺族や出版社によって編纂・出版されたテキストと比較することにより、彼らの編纂方法とその問題点を明らかにすることに主眼を置いている。平成23年度は、主に二つのことを計画している。一つ目は、ヘミングウェイが過去の自身や人生をいかに「短編・中編」に織り込んだかを、ヘミングウェイの自伝的事実との比較を交えて論考し、それをニックを主人公とする短編小説群「ニック・アダムズ物語」との関連性について考察することである。この成果は、日本ヘミングウェイ協会の研究誌『ヘミングウェイ研究』第12号に収められている。 また二つ目は、"Jimmy Breen"の執筆意図や作品世界などを明確にするとともに、他の死後出版作品との関わりの中で、「ヘミングウェイ独自の自伝スタイル」がどう変容したのか/していないのかを明らかにすることである。出産・育児による中断前は、"Jimmy Breen"のオリジナル原稿調査に従事した。当作品は全20章に分けてJFK図書館に保管されているが、そのうち公開されている8章分をデータ化し、出版された短編のテキストと比較した。その結果、オリジナル原稿と出版原稿とは大きな乖離があることが判明した。また関連資料に目を通したところ、ヘミングウェイが主人公の人称(一人称/三人称)をどうするか迷っていた形跡があった。この発見は、他の死後出版作品研究との関連において重要な意味を持つと考えられるため、研究再開後に集中して考察したい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度に行う予定であった研究計画を2つとも実行できているため。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究はヘミングウェイの死後出版作品群に焦点を絞り、オリジナル原稿と出版本の差異を比較・検討することを主眼とした。その結果、これらの作品が書かれた1940年代後半以降のヘミングウェイ作品、特に彼自身の経験を織り込んだ自伝的な作品において新たな視座を得ることができた。今後はその視座を軸に、同時期に執筆され、ヘミングウェイの生前に世に送り出された出版本を読み解くことによって、彼や彼の作品に対して新たな解釈が可能であるかどうかを考察していきたい。
|