2009 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀初頭ロシアにおける<新しい人間>の創造と演劇
Project/Area Number |
21720110
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
佐藤 正則 Kyushu University, 言語文化研究院, 准教授 (10346843)
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Keywords | 外国文学 / 思想史 / ロシア / 文化 / 演劇 |
Research Abstract |
本年度は3年間の研究の1年目に当たる。本年度の研究計画は、1900-1910年代のロシア諸思想潮流における<新しい人間>創造の理念と演劇理論との相互関連を検討することにあった。本年度は特に後期象徴主義とマルクス主義を重点的にとりあげ、その<新しい人間>観、背後の世界観、演劇理論を抽出した。双方においてともに演劇が<新しい人間>創造の手段とみなされていること、さらに世界観の相違にもかかわらず、後期象徴主義とマルクス主義の演劇観にいくつかの共通性が存在しでいることを明らかにした。演劇が個人主義の克服と新たな共同体の実現にとって有効とされている点、役者と観衆との乖離を克服した集団創造、祝祭劇が理想化されている点などである。こうした成果のいくつかについては、現在、論考を準備中である。 本年度発表済みの研究成果は以下の2点である。 論文「ヴァノフとチュルコフにおける<実在性>概念の二面性」(『ロシア史研究』第85号3-19頁)は、後期象徴主義者の中でとりわけ演劇に着目した二人の代表的理論家の、演劇理論の基盤をなす世界観について、従来の学説(後期象徴主義者は形而上学的本質のみを<実在性>みなしたと主張する)とは異なる新たな解釈を提示したものである。後期象徴主義者たちが形而上学的本質のみならず現象世界にも<実在性>を回復させようとしていたことを明らかにした。 共著書、松井康浩編『20世紀ロシア史と日露関係の展望』(九州大学出版会、2010年)では第1章「20世紀初頭ロシア思想の新たな見方:知的転換と知識人の間の論争をめぐって」(13-57頁)を分担執筆し、20世紀初頭ロシア思想を、新たな世界観の担い手である<新しい人間>創造の手段をめぐる論争としてとらえなおす可能性を探った。
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Research Products
(2 results)