2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21720112
|
Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
東 辰之介 駒澤大学, 総合教育研究部, 講師 (00508905)
|
Keywords | 仏文学 / 19世紀 / 愚者 |
Research Abstract |
本研究では、フランス19世紀文学における愚者像を比較検討し、その特質について全体的な知見を獲得することを目的とした。その結論は、「愚者」という言葉の概念的曖昧さはフランス語にも認められるものの、その文学的表象は類似するどころかむしろ対立する二種に分かれるということである。すなわち、世間的な価値観への盲従によって個人としての思考・反省能力を著しく損なってしまった「愚者」と、社会が要求する「正しい」考え方や振る舞いを受け入れる能力がないか、敢えてそれらを拒絶する変わり者としての「愚者」である。ルネサンス以降の西洋文学者の基本的スタイルは前者の「愚者」を風刺し、後者の「愚者」(しばしば狂人や白痴とされる)を、真実を明るみに出す存在として評価することにある。しかし、そうした図式に完全に収まってしまう登場人物は文学史上あまり評価されないようだ。例えば、19世紀前半のバルザック『ゴリオ爺さん』の主人公は「愚者」の典型として有名であるが、前者の「愚者」をベースとしつつも後者の「愚者」の性質を兼ね備えた複雑な存在である。これらの研究成果をふまえ、本年度は19世紀後半のフローベール作品における愚者像研究に着手した。フローベールは自身を後者の「愚者」の立場に置いて、前者の「愚者」を風刺・攻撃するという基本的スタンスに立ちながらも、自らのうちにも風刺されるべき前者の「愚者」がいることに自覚的であった。このため、『ブヴァールとペキュシェ』、『紋切型辞典』といった風刺文学の枠から大きく逸脱した異色の作品が生み出されたものと考えられる。詳細な分析はこれからであるが、そのために必要な基盤づくりは本年度の研究によって達成できたものと考える。
|
Research Products
(2 results)