2010 Fiscal Year Annual Research Report
プルーストと同時代の「復員文学」をめぐる文化史的研究
Project/Area Number |
21720115
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
坂本 浩也 立教大学, 文学部, 准教授 (50533436)
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Keywords | 仏文学 / プルースト / 第一次世界大戦 / 文化史 |
Research Abstract |
平成22年度は、ケルン、京都、パリで開催された国際プルースト・シンポジウムへの招待に応じ、第一次世界大戦期の「復員文学」にかんするこれまでの調査と分析を出発点としつつ、それぞれの学会のテーマにあわせて発表をおこなった。 「運動」をテーマにしたケルンの学会では、まず、戦術的な「機動性」と戦況の「流動性」の問題が、作家の歴史観・文学観・心理学的考察(動機の分析)を比喩的に表現していることを確認した。次に、愛国的「動員」をめぐる礼賛的な描写と批判的な分析の混在に注目し、国民動員の道徳(犠牲精神の礼賛)にかわる文学的復員(文化的な動員解除)の倫理が示唆されていることを明らかにした。19世紀文学との関係をテーマにした京都の学会では、トルストイをとりあげ、愛国心と反戦思想、軍事的天才と戦術の科学性、さらにはフランスとロシアの小説観にかかわるさまざまな論争において、この作家がプルーストにとっての潜在的な模範、論敵、分身または同志だったことを指摘した。特に、トルストイを例に「異化」の手法を論じたシクロフスキーとギンズブルクの研究を応用することにより、『戦争と平和』がプルーストの復員文学的な側面の重要なモデルであることを示した。パリでは、まず「プルースト研究の最近の動向と新たな方法」にかんするワークショップで、文化史的な視点の意義を提示した。プルーストの多彩な友人関係に着目したシンポジウムでは、「復員文学」に分類されうるコクトーをとりあげ、おもにふたりの複雑な友情の変遷を論じた。2年間の文化史的調査を通じて、復員文学だけでなく、新聞雑誌における戦況記事、トルストイの戦争文学など、戦時文学としての『失われた時を求めて』の新たな比較対象をとりあげることができ、文献学的な意味でもプルースト研究に貢献できたと考えている。
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Research Products
(5 results)