2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21720128
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
奥田 博子 南山大学, 外国語学部, 准教授 (10343063)
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Keywords | 原爆 / ヒロシマ / ナガサキ / 核兵器 / 記憶 / 歴史 / レトリック |
Research Abstract |
今年度は調査研究を進めるなか、昨年3月11日に端を発する福島第一原発事故がさまざまなかたちで立ち現れることとなった。具体的には、昨年の8月6日及び9日の広島平和記念式典と長崎平和祈念式それぞれの「平和宣言」のなかでこの原発事故への言及がなされたことがある。また、高齢の被爆者が今回の原発事故に触発されて従来とは異なる市民的な活動を開始している。さらに、「フクシマ」に象徴されるニュース報道のなかにヒロシマ/ナガサキの位置づけが見え隠れしていることも挙げられる。 世界で初めて放射線が個々の生命体とその世代的な再生産を支える遺伝情報に混乱をもたらすことを実証する「生き証人」としての被爆者、つまりヒロシマ/ナガサキが、現在、戦後日本の原子力エネルギー政策の歴史においてどのように位置づけなおされるかが問われている。3・11の直後ということもあり、全米コミュニケーション学会年次大会で「日米関係」に関するパネル・ディスカッションのなかで「フクシマから眺めるヒロシマ/ナガサキ」について研究発表をしたところ、他のコミュニケーション分野の研究者と活発な意見交換をする機会を得ることができた。また、昨年末には以前依頼されて寄稿した「原爆投下から65年を反芻するヒロシマ/ナガサキ」の校正を求める連絡を受け、校正とともに推敲を重ねた。 年度末には、「原子力の平和利用(アトムズ・フォー・ピース)」という名のもと、近代産業「文明」の最前線に位置づけられた「原子力=核」開発の技術が米国から日本に導入される過程やその後について米国国立公文書館にて調査研究を開始した。フクシマのなかにヒロシマ/ナガサキとの共通性を探究してゆくうえで、米国の首都ワシントンにおける日米の原子力エネルギー政策関係資料収集に向けた調査業務を開始できたことは、今後の研究推進にとって大変有意義であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を遂行するうえで、2011年3月11日の東日本大震災直後に発生した福島第一原発事故に端を発する一連の原発をめぐる国内外のさまざまな動きのなかで、あらためてヒロシマ/ナガサキの意味が問いなおされている影響を大きく受けた。実際、「原爆/核兵器」と「原発」を「原子力」へと綜合する力と「原子力」を「原爆/核兵器」と「原発」とに分析する力を批判的に捉えかえす視座が本研究に基づく事例研究や発表をより深みのあるものにした。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度が本研究課題の最終年度となるため、今年度の研究成果としての投稿論文を推敲すると同時に、国内外の国際学会における福島第一原発事故を端緒とする「原子力」並びに「原発」をめぐる論争のなかのヒロシマ/ナガサキに関する事例研究を発表する準備を進めている。現在のところ、フクシマをヒロシマ/ナガサキと繋げようとする動きと分けようとする動きが反発し合う状況のなか、日本の新しい原子力大綱及びエネルギー基本政策とヒロシマ/ナガサキとの繋がりがフクシマを介して浮かび上がりつつある。今後、核時代のヒロシマ/ナガサキをより実証的に検証してゆくうえで、戦後日本のエネルギー政策とヒロシマ/ナガサキとの関連性を次の研究課題として追求してゆきたいと考えている。
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Research Products
(2 results)