2011 Fiscal Year Annual Research Report
学際的アプローチによる中国-欧米間映画関係史構築に関する研究
Project/Area Number |
21720129
|
Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
菅原 慶乃 関西大学, 文学部, 准教授 (30411490)
|
Keywords | ジャーナリズム / 『閻瑞生』 / 幻灯スライド / 報道写真 / 中国映画 / 南洋市場 / 越境 |
Research Abstract |
今年度は、(1)中国映画界に対する欧米映画産業の"抑圧"と、中国映画界の"抵抗"という、民国初期の中国映画界を覆っていた世界認識が、中国映画をとりまく環境に如何に影響したか、について考察すること、(2)国産映画市場の地方都市と南洋への拡大にかんして補足研究を行うこと、の2点を目的とした。 (1)については、19世紀末以降ヨーロッパやアメリカで顕著となった大衆ジャーナリズムと視覚文化の結びつきと、それに伴う大衆のリアリズム志向の扇情化が、国産映画制作業勃興期の上海においても見られたことを実証的に明らかにした。具体的には、中国初の国産長篇劇映画『閻瑞生』が誕生する直前の上海において、大衆ジャーナリズムの急速な展開と報道写真の扇情化、幻灯スライドを用いた「幻灯講演会」の流行、第一次世界大戦の記録映画が、上海に生まれつつあった大衆のリアリズムへの欲求を満たしながら徐々に過激化していった様子を、新聞報道と公文書を主な資料として実証した。この成果は、テクノロジーと結びついた映画のような大衆文化領域においては、「外国」対「中国」という対立図式は基底にはあるものの、近代のもつ共時性・共通性も相当程度顕著に表れることを示したものである。 (2)については、1920年代の中国国産映画の南洋市場の需要性にかんする実証研究である。従来の映画史研究でも南洋市場の重要性はしばしば指摘されてきたが、本研究では、当該時期上海の主要映画会社の南洋進出にかんする詳細な過程と、シンガポールにおける中国映画配給・興行状況を、一次資料の分析によって明らかにした。その結果、中国映画の南洋市場が中国映画の単なる消費地であっただけでなく、上海の映画制作会社の映画制作方針・計画に多大な影響を与えるほどに重視され、結果として武侠もの等のジャンル化を促進したことが実証された。さらに、南洋市場の観客という「同胞」は、中国映画人が、反帝ナショナリズムという当時の時代的要請に応えるために不可欠な存在だったことが証明された。この成果をまとめた論文「越境する中国映画市場-上海からシンガポールへ拡大する初期国産映画の販路」(『現代中国』第85号)は、第8回太田勝洪記念中国学術研究賞(一般社団法人中国研究所主催)を受賞した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上掲「研究実績の内容」に記した今年度の二つの目的いずれにかんしても、関連する成果を研究論文として発表した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の過去3年間の研究を通じて、従来の中国映画史研究の基盤となっていた、「外国映画」対「中国映画」という対立図式が、産業面においても、美学面においても、必ずしも当時の実態を反映したものではないことが明らかとなった。さらに、中国映画の市場が広く南洋に拡大し、南洋での利益が本土よりも重視された点や、「外国」、とりわけアメリカに関して言えば、対中映画政策が、政府レヴェルにおいてさえ一枚岩ではないこと(例えば商務省の中国駐在調査員とワシントンの本局との温度差)も明白となった。したがって、次年度も、「外国」と「中国」を分かつ境界線そのものにたいして再考を加えるさらなる研究展開する。具体的には、これまでの映画史研究で全く言及されてこなかった上海基督教青年会(Y.M.C.A.)による非商業映画上映を中心に史料収集、分析を行う。
|
Research Products
(4 results)