Research Abstract |
本研究は、首都圏方言に観察される「とびはね音調」(詳細は田中ゆかり『首都圏における言語動態の研究』2010年・笠間書院を参照)を題材にして,首都圏方言における「新しい」音調が,日本各地へどのように波及,定着するか,そのメカニズムを模索するものである。その目的を達成するためには,日本各地の地域社会に生活する人々の言語に対する「意識」というものを明らかにすることも重要になってくる。そこで,本年度は,まず,福岡県北九州市に所在する大学の1年生(出身地は様々である)を対象に,以下のような意識調査を行った。首都圏における「とびはね音調」の使用者が若年層に多いと考えられ,首都圏における「とびはね音調」の担い手と同世代で,なおかつ地域社会に生活する人々の意識を探ることで,地域社会における「とびはね音調」の受容(あるいは非受容の)のメカニズムが解明できると考えたためである。 ・種々の場面や対話の相手を設定し,それぞれの場合において,自身が使用している言語がどのようなものであると意識しているのか ・自身の出身地の地域方言や首都圏方言に対する好悪 以上の調査の結果,地域社会に生活する大学生は,自身の出身地に対する愛着度が高く,多くの場合,自身の出身地の地域方言を使用すると意識する一方で,首都圏方言に対する志向性は必ずしも高いというわけではないということが判明した(特に,対話の相手が同級生である場合)。この結果は,地域社会に生活する若者がカジュアルな場面で「とびはね音調」(に類似した音調)を使用した場合であっても,その話者が意識的に首都圏方言を模倣したとは即断できないことを意味する。 また,九州方言研究会第31回研究発表会での発表を通じて,九州各地で観察される「とびはね音調」(に類似した音調)の情報を得ることができた。さらに,各種音声データベースを利用し,種々の同意要求表現の音調の諸特徴を探索的に分析した。これらの情報は,来年度の研究,調査を遂行する上での貴重な示唆,指針となりうる。
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