2009 Fiscal Year Annual Research Report
『羅葡日辞書』を中心としたキリシタン辞書編纂の研究
Project/Area Number |
21720163
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
岸本 恵実 International Christian University, 教養学部, 准教授 (50324877)
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Keywords | キリシタン / 辞書 / 羅葡日(ラポ日) / 日葡辞書 / ポルトガル語 / ラテン語 / イエズス会 |
Research Abstract |
平成21年度は主に、日本イエズス会の編纂・印刷した『羅葡日辞書』(1595年刊)と『日葡辞書』(1603-1604年刊)との関係について考察した。編纂に同じ人物が関わったかどうかは確認できないが、『日葡』の序文からも、似通った印刷様式からも、編纂上の強い関係が類推される。しかし、二辞書の内容を比較すると以下のようなさまざまな相違が見られる。 1.言語教育上の目的の相違 『羅葡日』は日本人のラテン語学習とヨーロッパ人の日本語学習を目的としており、日本語の類義語を並べるなど日本語学習者への配慮は見られるが、ラテン語と比べると日本語教育が二次的な目的であることは明らかである。『日葡』では話し言葉を重視するなど、『羅葡日』に比べ外国人宣教師の日本語学習向けに特化した辞書となっている。 12.対訳の相違 『羅葡日』のポルトガル語・日本語対訳と、『日葡』の日本語・ポルトガル語対訳には、意味にずれが見られる見出しが少なくない。これらの例は、1.の目的の相違から生じるものもあろうが、日本語の意味や辞書編纂のありようを知る手がかりとなる。 (1)「南蛮」 旧本語の「南蛮」は、ヨーロッパ人来日により一般にヨーロッパを指すようになったが、キリシタン側の資料では非キリシタンの資料とはやや用法が異なり、『羅葡日』内でもゆれが認められることから、通時的な語義変化だけでなく共時的な意味・用法の違いもあったとみられる。 (2)「脾臓」 ヨーロッパ医学と日本医学とでは人体の捉え方が大きく隔たっていたため、相互に翻訳困難な部分があった.一例として、日本語の「脾臓」をヨーロッパ医学のどの臓器を対応させるかは『羅葡日』『日葡』で訳が異なっており、『日葡』内でもゆれが見られる。このゆれは、日本医学における多様な「脾臓」の機能を、ヨーロッパ医学のどの臓器の機能に当てはめたかによって生じたようである。
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Research Products
(8 results)