2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21720219
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
川口 暁弘 北海道大学, 大学院・文学研究科, 准教授 (80327311)
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Keywords | 日本近代史 / 日本憲法思想史 |
Research Abstract |
「昭和戦前期の憲法観の研究」と題して研究を行う。ここで憲法観とは、個別条文の解釈ではなくて、憲法そのものについての認識というほどの意味である。ここには憲法を受容するか否かの問題に始まって、憲法遵守の強度の検討をへて、憲法信仰の有無とその様態に到るまでの問題群を含む。 昭和戦前期の憲法観の特質は「不磨ノ大典」ということばで集約できる。憲法改廃はもとより条文修正、解釈改憲すら許さない、そのような思潮である。昭和戦前期において明治憲法はある種の信仰対象と化して、観念右翼から革新派までその思想と行動を制約していた。国家改造運動にとって最大の障碍は、革新派においても内面化されていた「不磨ノ大典」にふれることへの畏怖であった。その際たる事例が新体制運動の挫折である。かくて日本は、戦争遂行のために高度国防国家建設を建設することもままならず、さりとて和平実現のために軍部を圧倒する政治力を作り上げることもかなわない状態-国家運営の機能不全-に陥るのである。 昭和の日本にかかる影響を与えた憲法観=「不磨ノ大典」が形成された歴史的経緯を解明すること、および昭和戦前期における発現の様態を具体的に明らかにすることが、本研究の目的である。 本年度は計画の第三段階として、1935年以降1945年までの、総合雑誌における憲法言説を調査し、「不磨ノ大典」の表出を確認した。この作業により、より広く世論の動向を確認することが可能となった。上記作業のかたわら、大隈重信、筧克彦、平沼騏一郎、金森徳次郎の憲法観をあらわす資料を収集吟味し、「不磨ノ大典」の発生から終焉までの時期、視角の有効性について確認することができたことは収穫であった。また、本研究にとって付随的ではあるが興味深い論点をいくつか発見することができたので、次年度研究期間中に個別論文として発表する所存である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は計画の第三段階として、1935年以降1945年までの、総合雑誌における憲法言説を調査し、「欽定憲法史観」「明治大帝尊崇」「憲法の国体化」の表出を確認する予定であった。この作業により、より広く世論の動向を確認することが可能となることが期待されるからである。当初の調査対象は『太陽』『文藝春秋』『中央公論』『改造』であり、余裕があれば『キング』等の娯楽誌や少年誌、婦人誌もふくめたいところであった。今年度の作業により前者の総合雑誌の調査はほぼ完了したが、後者の娯楽誌・少年誌の調査は不十分に終わった。よって(2)おおむね順調に進展している、と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
来たる平成24年度は研究の最終年度にあたるため、可及的速やかに娯楽誌・少年誌の調査を行うと共に、平成23年度調査中に懸案として浮上した二つの点について考察を深めて行きたい。第一に昭和13(1938)年の憲法発布50年記念事業である。折からの国家総動員法案違憲論に影響を与えたことが議事録の端々にうかがえる。第二に昭和15(1940)年の議会制度50年記念事業である。折からの大政翼賛会違憲論に影響を与えたことが多くの文献から確認できる。二つの憲法関連記念事業は「不磨ノ大典」の意識を官民双方・革新漸進両派に再確認させる契機となったと推測できる。よってこの二つの事業についての詳細を調査することとする。(尚、憲法発布50年事業は憲法発布の明治22(1889)年を第一年として勘定しており、議会制度50年記念事業は明治23(1890)年の制度施行からの50周年であるため、上記のように50年記念事業が二年ずれたのである。)
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