2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21720269
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小川 知幸 東北大学, 学術資源研究公開センター, 助教 (70312519)
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Keywords | 西洋史 / 比較・交流史 / 科学社会学 |
Research Abstract |
本研究は、15~16世紀における知的エリートのコミュニティ=社会間のオープン・コミュニケーション(学環)の成立を、最初の近代地図帳とよばれるオルテリウスの『世界の舞台』(Theatrum Orbis Terrarum)のテクストおよび図版の収集と分析を中心に解明しようとするものである。 本年度は、おもにドイツ・ハイデルベルク大学での現地調査により、各版および関連資料を収集し、順次、整理、分析した。その研究成果のひとつとして発表した論文「世界を再構成する-オルテリウス『世界の舞台』のコンポジション-」では、初版(1570年版)に収載された53幅の地図のうち9割までが、新地図というよりも、オルテリウス自身が厳選した既存の印刷地図を、ほとんど改変せずに掲載したものであったこと、そうした地図として特定できたのは33幅であったが、「地図製作者名録」(Catalogus Auctorum)には、じっさいに利用された地図の数をはるかに上回る183名が明記されていたことなどをあきらかにした。 つまり『世界の舞台』とは、既存印刷地図を「体系化」することによって、当時の既知の世界を再構成したものであった。また、引用元を明確化することにより、学術コミュニケーションのオープン化を図ったものでもあった。オルテリウスは、ひと揃いの地図だけで一冊の書物を作ることで、それまでの人文学者の知的伝統に対する挑戦をくわだてたのである。
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