2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21720270
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小澤 実 Nagoya University, 大学院・文学研究科, COE研究員 (90467259)
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Keywords | ルーン石碑 / ゴーム老王 / ハーラル青歯王 / デンマーク / イェリング |
Research Abstract |
申請者は、2007年と2008年に刊行した「Rune stones create a political landscape」という英文論考で展開された、テクストとコンテクストの相互作用によって生み出される情報を、特定の歴史空間で展開される政治史の中に位置づける方法論に基づき、デンマークで発見されたルーン石碑、とりわけイェリングの二つの石碑の分析を進めた。そのプロセスにおいて得られた結果は、次のようにまとめられる。(1)ただルーン文字の刻まれたテクストとしてではなく、そこに刻まれたテクストでの主張を、そのテクスト内容と利害関係を持ちうる共同体の中で機能するメディアである。(2)メディアとしてのルーン石碑は、第一に死者を記念するモニュメントとして、第二に、ビルギット・ソーヤーが主張するように、土地財産等の所有権を共同体内で確認するランドマークとして機能している。しかしながら第三に、ルーン石碑は、建立者の政治的表徴として、建立者が有する権力を視覚的に反映している。(3)以上の前提をふまえたうえでイェリング石碑に立ち戻っでみるならば、以下の結論を得ることが出来る。イェリング石碑は、その石碑の視認者、つまり、イェリング王族、デンマーク有力者層、スカンディナヴィア有力者層、そしてキリスト教ヨーロッパ世界からの来訪者という四つのタイプに対して、ハーラル青歯王が、「デンマークを統一し、ノルウェーを支配し、デーン人をキリスト教徒となした」自らの事績を誇り、周囲に印象付けるためメディアであった。このイェリング石碑を通じてハーラル青粛王は、デンマークをキリスト教世界の一員として認めさせようとしていた、といえるかもしれない。
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