2010 Fiscal Year Annual Research Report
ローマ帝国とアテネ ―ギリシア・ルネサンスの政治史的研究―
Project/Area Number |
21720276
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
桑山 由文 京都女子大学, 文学部, 准教授 (60343266)
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Keywords | ローマ帝国 / ギリシア=ルネサンス / ヘロデス=アッティコス / 第2ソフィスト / アテネ |
Research Abstract |
本年度は,まず,昨年度に引き続き,ハドリアヌス帝(在位117-138年)創設の「都市同盟」パンヘレニオンについて研究を進め,この「同盟」の創設には,ローマ皇帝側のどのような意図があったのかについて検討した。その結果,創設の目的は,アテネにおけるパンヘレニア祭の円滑な運営にあったのであり,パンヘレニオンはアテネへの一種の支援組織だったこと,「同盟」そのものには二義的な重要性しか与えられていなかったことを明らかとした。すなわち,パンヘレニオン創設の意図は,全ギリシア世界の「統合」ではなく,都市アテネを都市景観だけでなく人的資源の面でも活性化させ,帝国の「文化首都」として定着させることにあったのである。 このような結果を踏まえ,さらに年度後半には,ハドリアヌス帝期アテネの変容を現地で支えたのはいかなる人々であったのかに考察対象を移した。アテネ出身の弁論家ヘロデス=アッティコスとその同名の父親に注目し,彼らのアテネとローマ中央における経歴を詳細に検討することで,アテネの変容はハドリアヌス帝の個人的ギリシア趣味によるだけではなく,後1世紀末(ネルウァ,トラヤヌス帝期)から帝国中央で高まっていた,ギリシア文化への関心の延長線上に位置づけるべきことを明らかにした。 以上のように,ローマ帝国支配下での都市アテネの変容を,ローマ中央とアテネ双方の視点から複眼的に考察し,ギリシア文化がローマ帝国にとって不可欠な要素となり,両者の「融合」が進んでいく過程の一端を明らかにした。
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