2011 Fiscal Year Annual Research Report
ローマ帝国とアテネ ―ギリシア・ルネサンスの政治史的研究―
Project/Area Number |
21720276
|
Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
桑山 由文 京都女子大学, 文学部, 准教授 (60343266)
|
Keywords | ローマ / アテネ / パンヘレニオン / ヘロデス=アッティコス / 第2ソフィスト |
Research Abstract |
本年度前半は,昨年度に引き続きパンヘレニオン都市同盟に焦点を当てたが,軸としたのは,この組織の構成メンバーであるパンヘレネスやアルコンがどのような地域の出身で,アテネにおいていかなる活動を行なったのかであった。その結果,ハドリアヌス帝のアテネを実際に復興していった中心的存在はアテネ外のギリシア人であり,彼らの抱いたアテネへの「憧れ」こそが,この都市の繁栄を支える原動力となっていたということが明らかになった。そこで,本年度後半には,当時のギリシア文化圏の有力家系に注目し,彼らがアテネとローマ中央双方とどのような関係を構築していたのか研究を進めていった。 まず,彼らがローマ中央政界で権力中枢に浸透していった様子を分析した。ギリシア文化圏出身元老院議員は既に2世紀初頭には政権の一角を占め始めていたが,2世紀後半には皇帝家と親族関係で結びつくなどその存在感はますます大きくなり,結果,中央の「ギリシア化」がさらに進展したこと,こうしたギリシア系元老院議員は,思想的にはギリシア本土中心主義ではあっても,現実の活動にはローマ的側面が強かったことを明らかにした。この点については2012年3月1日~6日にかけてローマ市への調査旅行を行ない,ギリシア系元老院議員のローマ市での勢力の大きさを実地に確認することができた。その上で,2世紀末のアテネにおける,小アジア出身元老院議員のクインティリウス兄弟とアテネ出身元老院議員のヘロデス=アッティコスとの権力闘争について検討し,ギリシア文化圏の有力家系の中央での上昇が,「帝国文化首都」となったアテネにも大きな影を落とすようになってしまったこと,すなわち,2世紀後半のアテネが,ギリシア文化圏と帝国中央との精神的距離の短縮によって,それまでには経験しなかった政治的問題にも巻き込まれるようになっていった実態を明らかにした。
|