Research Abstract |
本研究は研究期間の3年にわたり,オーストラリアを主たる事例地域とする現地調査を重視してきた。研究最終年度にあたる今年度は,シドニーとメルボルンにおいて詳細な現地調査を実施した。 本研究により確立した分析手法である,オーストラリア統計局発行の国勢調査データ「デーブル・ビルダー」のカスタマイズ機能とGIS(地理情報システム)を組み合わせた分析を多用した。具体的には,2006年実施の国勢調査に着目し,小統計区単位での詳細な社会経済属性の解析を進めた。分析の結果,都心部の高層コンドミニアムへの需要は今なお堅調であるものの,主たる居住者の変質が確認できた。すなわちジェントリフィケーションの先進事例(ニューヨークやロンドン)で指摘されていることと同様に,シドニーやメルボルンの高層コンドミニアムの主たる発生源は,DINKSをはじめとする可処分所得の高い若年層が多いことが確認できた。一方で「大都市」,「若年高所得」,「世界都市」等をキーワードとする研究例とは一線を画す傾向,すなわち,アジア諸国を中心にオーストラリアの大学に進学する留学生や卒業直後の若年層が作り出す「新たな住宅需要」が極めて重要であることもわかった。こうした議論は,これまでのジェントリフィケーションの研究の延長上にあるといえるが,実際にはほとんど実態が解明されてこなかったことである。 また,今年度は,研究成果を学会発表を通して積極的に公開することに努めた。6月に開催された地理空間学会における口頭発表,また8月にイギリスで開催された国際地理学連合(IGU)の都市地理学研究グループにおいても口頭発表を行った。さらに,査読付英文誌への論文掲載,オーストラリア現地で発刊された学術書への分担執筆を行った。研究結果の公表という点では,十分に成果をあげることができた。
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