2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21730008
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高谷 知佳 Kyoto University, 法学研究科, 准教授 (50362562)
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Keywords | 法制史 / 日本中世史 / 都市法 / 比較都市論 / 都市文化 / 中世都市 / 宗教権力 / 賦課 |
Research Abstract |
本年度は、中世都市奈良が、室町期を通した中央との緊張関係を背景に、法・規範の正当性根拠をどこに求めたかを、史料にもとついて検討した。論文「都市法の内と外-中世奈良の都市賦課をめぐって」(共編『法の流通』慈学社こ2009)においては、都市という多元的な権力の利害関係が交錯する場に対して、当事者となる諸権力が、個別の特権や先例などの法規範を、具体的な紛争における調整として活発に用いること、但し彼らの法規範は個別の人的パトロネージ関係にもとづくものであり、都市全体を規律す性格をもたないこと、都市全体を規律する規範としては、具体的な支配を及ぼさない外部の権力である室町幕府の、当該事態とは直接関係しない内容の法が掲げられることを明らかにした。この成果は、中世都市における特権や先例が次第に衰退をたどるとする見方への新たな論点提示である。また、室町幕府の発する法や規範を、社会の諸権力が、実体を伴わないがゆえに積極的に受容したという点で、末期室町幕府権力論への提言ともなろう。 またこの共編著『法の流通』においては、私は編者を務め、法制史学会60周年記念事業として、比較史という草創期の方法論と、最新の隣接諸分野からの研究成果とを活かすという方針を掲げて取り組んだ。なお、2010年5月の法制史学会62回総会において、『法の流通』に対する合評会を企画し、評者の選定や趣旨説明を担当している。 また、比較都市文化研究会において、西洋中世都市論の第一線の研究者である河原温氏の最新の著書『都市の創造力』(岩波書店、2009年)に対し、日本史・中国史・西洋史の研究者とともに、書評・検討を行った。この企画では、私は法制史という立場から、各分野の方法論および研究成果に学んだ上で、理論面からのアプローチを行い、都市という枠組み、とりわけ法圏という枠組みが、西洋都市では明確に設定されており、日本都市では非常に曖昧なまま、それを補完する秩序維持がはかられているということを示した。この成果は、さらに具体的事例に則して検討を深め『都市文化研究』12号に「『文化としての都市』の比較に寄せて」と題して寄稿した。 いずれの成果も、翌年度以降の研究の基盤となるものである。
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