2010 Fiscal Year Annual Research Report
詐欺罪をめぐる「処罰の早期化」に関する考察-詐欺罪の成立範囲の明確化に向けて-
Project/Area Number |
21730061
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
足立 友子 成城大学, 法学部, 専任講師 (70452555)
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Keywords | 刑事法学 / 詐欺罪 / 財産犯 |
Research Abstract |
本研究は、いわゆる「振り込め詐欺」や補助金の不正受給などの新しいタイプの詐欺的行為が社会的な問題となっている日本の状況を踏まえて、詐欺罪規定のあり方について検討し、これから採るべき方向性を明確にすることを目的としている。 本年度は、主として、日本における詐欺罪をめぐる判例の検討と、ドイツの詐欺罪関連規定についての研究を行った。最近の最高裁判例からは、学説上の議論において詐欺罪の構成要件要素の一つと従来されてきた「財産的損害」の理解が再検討を迫られる要因が見出だせる。とりわけ、第三者を搭乗させる意図を秘して航空会社の搭乗業務係員に外国行きの自己に対する搭乗券の交付を請求しその交付を受けた事案である、最高裁平成22年7月29日決定(刑集64巻5号829頁)は、交付された財物それ自体の経済的価値がごくわずかといえ、「損害」の内実や範囲がいかなるものかにつき再考を迫るものであった。詐欺罪の構成要件要素としての「財産的損害」の内実や、詐欺的行為に対する処罰の早期化については、ドイツにおいても議論がなされている。とりわけドイツでは、一定の詐欺的行為につき損害の発生を待たずに既遂とする、抽象的危険犯の規定が新設されていることが注目される。これらの規定が実際に適用される場合はさほど多くないものの存在していることからは、詐欺罪の基本構成要件の拡張的理解によるのではなく、問題状況ごとに切り分けた規定を設けることも、現状への対処として有効であることがうかがえる。他方で、かような法改正は、詐欺罪関連規定についての整合的な理解を難しくし、解釈論上の問題を生じさせてもいる。 これらの状況から示唆を得ながら、日本においては、あくまで詐欺罪の基本構成要件を堅持していくべきか、刑法典あるいは特別法による規定の新設が望ましいのかを含め、適切な方向性がいかなるものかを、次年度の課題として引き続き検討していきたい。
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