2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21730071
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中原 太郎 東北大学, 大学院・法学研究科, 准教授 (60401014)
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Keywords | 民事法 / 不法行為責任 / 企業責任 / 使用者責任 / 個人責任 / 土地工作物責任 / 労働者責任 / 現代的結合関係 |
Research Abstract |
本年度においては、事業遂行者の不法行為責任の中で伝統的に最も議論が蓄積されてきた使用者責任法理及び関連諸法理に関する研究を継続し、平成22年度に公表を開始した二つの論文の続稿を公表した。第一に、「事業遂行者の責任規範と責任原理」と題する論文であり、平成22年度に公表した日本法の現状分析に引き続き、フランス法及びドイツ法の使用者責任及び周辺諸法理に関する研究成果を公表した。そこでは、(1)フランス法上、使用者の免責証明を許さない民法典上の使用者責任規定を前提に、使用者責任の基礎が伝統的に論じられてきたところ、近時の判例の展開(使用者責任の適用範囲の拡大、被用者の個人責任の制限)を前提に新たな理解が示され、それに応じて使用者責任の規律が整序されていること、及び、使用者責任の枠外で使用者のフォートに基づく責任も論じられていること、(2)ドイツ法上、使用者の免責証明を許す民法典上の使用者責任規定には不備があるとの認識を前提に、社会生活上の義務の法理に裏打ちされた組織過失責任が判例・学説上展開されることにより、使用者が負う義務の拡充がなされていること等を指摘した。今後、ドイツ法の分析(労働者の個人責任等)を完結させるとともに、(3)日本法における使用者責任のあるべき方向性を提示する予定である。なお、未公表部分も含め、本論文の全体像に関して、平成23年度日本私法学会において学会発表を行い、質疑応答等を通じて学会参加者と充実した議論を行った。第二に、「国家賠償責任と使用者責任」と題する論文であり、平成22年度に公表した「私人の行為による国家賠償責任」の判例紹介に引き続き、その内実に関して理論的分析を加えた。続稿において、国家賠償責任と使用者責任の関係を責任原理及び責任規範の観点から再検討し、民法理論と行政法理論の架橋を行ったうえで、使用者責任論への具体的示唆を導く作業へと進む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,事業遂行者の不法行為責任の人的側面及び物的側面の双方を扱うものであり、すでに人的側面の研究に関しては、使用者責任及びその周辺問題に関する日本法・フランス法・ドイツ法の比較法研究、及び、使用者責任と国家賠償責任の比較考察により、すでに所期の目的をほぼ達成している。また、物的側面の研究に関しては、使用者責任論に内在する考え方及び方法論の主要部分が応用可能であることが判明したため、フランス法との比較研究の補充等によって、所期の目的をかなりの程度達成できる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、(1)使用者責任及びその周辺問題(使用者の過失責任、個人責任、代理監督者責任等)に関する日本法への具体的提言をまとめたうえで、必要に応じて比較法的考察の補充を行う。また、(2)事業遂行者の物的組織に関する責任については、フランス法を中心とする比較法研究を行う。その際には、人的組織に関する本研究のこれまでの方法論(責任規範及び責任原理への着目)が活かされる。後者に関しては、必ずしもわが国における議論の蓄積は豊富ではないが、海外の研究機関での文献収集等を通じて完全を期すつもりである。
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Research Products
(7 results)